「ユーロ連鎖危機」有田哲文著 朝日新聞出版 ― 2011/09/01 21:21
ギリシャ危機に始まり、アイルランド、ポルトガルに飛び火していくユーロ危機を、各国を足で歩いた取材で構成するルポ。
実際現地を歩き、一部との声を取材しているだけに類書とは一線を画す迫真感がある。
著者があとがきに書いているように、今のEU諸国が進んでいる方向は日本がバブル崩壊後に歩いてきた道にも類似しているが、借金を国内で消化できないときにどのような道が待っているのかという視点で見ると、むしろこれからの日本の姿に重なって見える。
本書から見える現地からの報告では、想像以上にユーロの危機は大きいと感じる。
また、主題とはやや異なるが、キャメロンのイギリスがあえて不人気政策をとり補選で負けても次の総選挙は2015年。日本の参院がお手本にした上院(貴族院)はその権限が大幅に弱められて一院制に近い姿となっているという。
これをねじれ現象から何も決められず、1年ごとに首相が交代している日本に引き直すと、雲泥の差に感じてしまう。
「なぜ日本経済はうまくいかないのか」原田泰著 新潮社 ― 2011/09/04 05:23
2006年から最近までの主に東洋経済に掲載したエッセイを再構成したもの。
経済学者らしく、通説とは少し異なる議論を展開して、読者に必ずしもものの見方は一つではないという気付きを与えてくれる。
ユニークなものとしては、
民主党のいわゆるバラマキ3K批判に対して、もともと政府はバラマキを行うのが仕事。公共事業や土地改良事業などに比べれば、特定の利益団体へのバラマキではなく、広く薄く配ることになるのでむしろベターな政策だとする。
また、子供手当を批判するなら今の年金制度も、事実上負担よりも給付がはるかに多いのであるから「老人手当」と呼ぶべきであるとしている。
そして、制度を変えなければ2050年までに消費税は60%にもなってしまうと危惧する。
そして、現在のデフレ脱却のためには財政政策だけではなく金融政策も重要とし、日銀による国際の買い上げも提言している。
一方、民主主義に関する考察は西欧の歴史も踏まえて深いものになっているし、「幸福追及の原理」とは金持ちになる権利と解釈しているところも経済学者らしい。
ただし、都市計画のあたりになるとルコルビジエの西欧礼賛といった印象があり、ついていけないところがある。
全体に、独特の論を展開しており、ものの見方は一つではないと教えてくれる本ではあるが、皮肉を込めて言えば典型的な経済学者の本でもある。
「すべてはどのように終わるのか」クリス・インピー著 早川書房 ― 2011/09/06 20:45
人の寿命、人類、地球上の生物、太陽、銀河、そして宇宙へと「終わり」というユニークな切り口から見た、生物学、天文学、物理学など現代科学を網羅する欲張りな解説書である。
身近な生命から抽象的なひも理論に至るまで最近の科学の成果がこれでもかと盛り込まれていて、引き込まれてしまう。
そして、この宇宙にはわれわれしか存在しないという「人間原理」は否定し、地球外生命の可能性への夢を語り、カリブ海での感動的な体験から、宇宙の終わりへの想像力を語ってくれる。
なかなかのロマンチストでもある。
新たな知識もいろいろ教えてもらった。
「タスマニア島に1キロ平方メートル以上に伸びている1本の潅木は樹齢4万3600年。」
「ガンマ線バーストは一日に1回は宇宙のどこかで発生している。」
「狩猟採集民の食事は低脂肪でカリウムが豊富、カロリーは低め、寄生虫も少なく伝染病にかかる率も低かった。」
「ニューロン自体は酸素の供給なしに1日は生き延びられるのに酸素が欠乏してから5分以上経過して酸素の供給を再開すると細胞が死んでしまう。時間を置いてから徐々に酸素を供給するのが有効。」
「ナンキョクオキアミは1匹の体重は1グラムだが全部まとめて測ると10億トンで全人類より重くなる。」
「あらゆる証拠を集めると、私たちは今6回目の大絶滅すなわち『大絶滅』の真っ只中にいる。」
「アメリカ国内ではウラン鉱からでた残滓は2億4500万トン、原子炉から出る高レベル使用済み核燃料は4万5000トン、プルトニウム処理後に出る高レベル廃棄物は3億4000万リットルに上りユッカマウンテンではこれを処理できない。」
「微生物の生物量は1個はわずか1000兆分の1グラムなのに総量の重さは1ギガトン。」
「ヒトのDNAはチンパンジーに比べて7倍早い速度で変化してきた。」
「南アフリカの金鉱地下2.73キロの地点で発見された細菌はウランの崩壊からエネルギーを得て、酸素のない摂氏60度の中で生き延びる。」
「カーボンオフセット、植林、リサイクル、地球にやさしいライフスタイルいずれも意味のない行動だ。地球温暖化はもはや手遅れ。」
「毎日およそ100トンの宇宙ごみが雨のように降り注いでいる。微小隕石は常に我々の上に落ちてきている。」
「天の川銀河の終わりを12月31日とするとビッグバンから137億年の現在は1月1日の深夜から0.2秒すぎた時点に過ぎない。」
「宇宙には膨張を加速させているダークエネルギーがある。」
「膨張する宇宙では、今から数十億年後光子が光の膨張よりも早く離れていくために昔の宇宙が見られなくなる。さらに1兆年後光子はひとつも見えなくなる。」
「はるか遠くの未来の宇宙ではほとんどの天体は冷たくなり白色矮星になる。」
これら多くの、科学的知見を挙げながら、われわれをはるか遠い未来へと誘ってくれる。
科学はとかく物事の起源を探求することを得意としており、終わりについては空想科学の領域に入り込んでしまう。 本書はあえて、現代科学で解明されている最新理論を駆使しながら、「終わり」について思い描く。
遙か遠い未来と果てしない宇宙を旅することができた。
「形態の生命誌」長沼毅著 新潮社 ― 2011/09/10 15:21
生物をカタチという切り口から解説した異色な本。
それだけでなく、ゲーテやカント、数学、物理学、化学、言語学など多彩な分野に話が展開し、著者の博識が感じられる。
といっても、一貫して謙虚であり、ユーモアに満ちているのも好感が持てるし、楽しい。
最新の生物学の成果もたくさん盛り込まれている。
このため、いろいろと新しい知識を教えてもらった。
生物である珪藻類がつくるガラス質細胞壁がつくる模様の美しさ。
わずか4つの自然選択の条件をシミュレーションするだけで実在する樹木の形態のほとんどを表現できる。
油の滴下だけで、対生・互生・輪生の葉序を再現できるモデル。
螺旋葉序から導き出される黄金角。
ひまわりの花ネンジュモの細胞配列などいろいろなところに顔を出すフィボナッチ数列。
蜂の巣の構造とケルビン予想である14面体の関連。
ペンギンの動脈と静脈の熱交換システム。
アニマル柄やシマウマのパターンをイギリスの天才数学者チューリングの方程式で説明できるとした日本人研究者近藤滋博士の研究。
などなど
なかでも、「現実の森林がたった一つの樹種によって独占されないのは選択肢がたくさんあるからである」という話には、人間の世界にも通じる普遍性を感じる。
「税と社会保障の抜本改革」西沢和彦著 日本経済新聞出版社 ― 2011/09/14 20:03
今政府では「税と社会保障の一体改革」が議論されている。
本書は、これら議論へのまさに「抜本」的な改革試案である。
消費税、所得税、年金、健康保険、そして子ども手当まで包含し、問題点と課題を詳細に分析しつつその改革の方向性を明確に示している。
感情論にとらわれずに冷静かつ客観的に論を進めている。
いろいろと教えられることがある。
・すでに消費税は基礎年金、高齢者医療、介護にのみ充当されると規定されている。しかし、消費税の規模は9.6兆円。そのうち3割が地方交付税に充てられ、残りの6.8兆円ですでに福祉に必要な16.6兆円に対して9.8兆円も不足している。
・配偶者控除の廃止についての考察。男性も女性もすべての成人が労働市場に出て働く社会を目指す必要がある。配偶者控除の廃止は、女性就労の障壁除去と一体的に進められなければならない。
・後期高齢者制度についての検討も興味深い。詳細な分析を通じて、高齢者に極めて有利な制度設計となっていることを明らかにしている。
これに加えて、制度導入時に継続して行われている保険料軽減策、70~74歳までの自己負担割合1割への凍結継続を元の姿に戻すことを提言している。さらには、被用者健保から国保への所得移転の拡大は国保の財政を支援しているようで国保への流入を加速させている。これを根本的に是正するためには、後期高齢者支援金や前期高齢者納付金の廃止か縮小しかないとしているところは注目したい。
そして、今話題の「給付付き税額控除」についても、英国や米国における具体例を紹介しながら、まさに税と社会保障をセットにしながら制度設計をしなければならないことを論じている。
この国の社会保障の問題は単純に消費税の引き上げだけでは解決しないことを痛感する。
本書が、広く国民的議論のためのたたき台となることを切に願いたい。
ここでは、英国の社会保障給付の考え方が参考になる。
「税制も社会保障制度も就労インセンティブ向上と貧困削減のための手段提供という同じ目的に向けて役割を果たすべきだ。」
「アナロジー思考」細谷功著 東洋経済新報社 ― 2011/09/17 11:41
少し前にロジカルシンキングという手法がはやったが、本書はこれを少しもじったアナロジカルシンキングをテーマにしている。
すなわち、新しいアイデアは、既存のアイデアを借りてきて組み合わせることから生まれるという思考法である。
確かに、革新的な考え方やイノベーションは何もないところから生まれるのではなく、それまでの多くの先人の築き上げた土台の上に成り立っている。芸術の世界も同様で、創造は模倣から生まれるとされる。
本書はこれを、できるだけ体系的に解説し、抽象化思考力の鍛え方、身近なビジネスの世界への応用の仕方を身につけるためのノウハウが詰め込まれている。
さすがに、このテーマを著書にしているだけあって、本書の至るところに出てくる事例も実に幅広く、著者が様々な分野に精通していることがうかがわれる。
改めて、アナロジー思考のために必要な抽象化思考を見につけるためには、食わず嫌いにならずできるだけ広い分野に関心を持つことが大切なのだと感じた。
「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか 開沼博著 青土社 ― 2011/09/17 18:41
先日NHKで放送されたマイケル・サンデル教授の原子力をめぐる議論が印象的だった。原子力発電に賛成している学生のほとんどが自分の住まいの近くに作られるのは拒否する。しかし一定のお金と引き換えに貧しい地域へつくるのはやむを得ないとする。しかしある学生が言う。「東京のためにあえて危険な発電所を受け入れた地域への思いは忘れてはならない。」
本書もまさに、このような視点で書かれており、深く考えさせられる。
なぜ、福島に原発がつくられたのか、そして地域をそれをどのように受け入れていったのか、綿密な調査とフィールドワークに支えられ、実に手にとるように描かれている。
3.11をきっかけにわれわれはフクシマに注目しているが、原発存続か脱原発かといった二項対立では割り切れない地域のあり方を提示している。
ここで焦点があてられるのが、原発反対派から推進派へと転向をしたという双葉町の岩本元町長である。その分析は、推進/反対から愛郷/非愛郷への二値コードの再定式化である。反原発の動きは愛郷の中に取り込まれるという理解は重要である。
それは、保守本流としてスタートし、その反原発として中央と対峙した佐藤栄佐久元福島県知事にも当てはまる。
これらの事実は、3.11後の原子力ムラの人々が原発労働者として刈羽村に避難している姿を取材しているところと共鳴している。
「原発の危険性を報じようとせず安全・安心の大本営発表を垂れ流す旧来型マスメディアへの批判の一方で、脱原発のうねりも何かを見落としている。原発を動かし続けることへの志向は一つの暴力であるが、ただ純粋にそれを止めることを叫び彼らの生存の基盤を脅かすこともまた暴力になりかねない。」
原発だけでなく、大型ダム開発や沖縄の基地問題など中央と地方のかかわりのあり方までも見通した力作である。
ちなみに本書は、著者が長年研究してきたテーマを踏まえて2011年1月14日に提出した修士論文を加筆修正したものであるという。したがって、3.11以降ににわかにまき起こった知識人たちの議論には冷ややかである。
それを踏まえた著者の最後の言葉は重い。
「信心を捨てそこにこぼれ落ちるリアリティに向き合わなければならない。希望はその線分の延長上にのみ存在する。」
「われ日本海の橋とならん」加藤嘉一著 ダイヤモンド社 ― 2011/09/21 19:57
表題は新渡戸稲造の言葉をもじったもので、そのくらいの気概を持って中国で活動していく意思を表明したものであろう。
本書は高校時代から世界を目指し英語をほぼ独学で学習しTOEIC900点、そして山梨学院付属高校の駅伝部を高校2年でやめてから猛勉強、北京大学初の国費留学生となり、中国語も猛特訓でほぼ半年でマスター。
反日デモについての香港のテレビ局の取材への出演をきっかけに北京を拠点に言論活動をしている中国で最も有名な日本人となるまでの自伝である。
さすがにこれだけの経歴を持つ人物ともなると、並外れた能力とそれ以上に努力家であることをうかがわせる。
そして、中国で生活し、さまざまなメディアで言論活動しているだけあって中国に関する理解も深いものがあり参考になる。
なかでも、「中国政府にとって、日本と敵対するメリットは何もない。反日とは建国の歴史からのダブルスタンダードだ。」という分析は参考になる。
このような若者が、日本にもいることは心強い。
ぜひ、多くの若者が彼に続いてほしいと感じた。
「国家対巨大銀行」サイモン・ジョンソン、ジェームズ・クワック著 ダイヤモンド社 ― 2011/09/21 20:25
アメリカの金融業界が、いかに政治に食い込み、これを徹底的に利用して規制緩和を行い、暴利をむさぼり、そして金融危機後も、政治を利用して甘い救済策を作り出してきたのかを述べ、独自の解決策を提示した本。
本書のエッセンスは、最終章にある。
そのために前段で、アメリカ建国の父ト-マス・ジェファーソンや金融恐慌から救ったルーズヴェルトが果たした役割を丁寧に解説している。
すなわち、ジェファーソンは権力集中を招くという理由から中央銀行の創設には反対し、ルーズヴェルトはあの有名なグラススティーガル法により、金融と投資の厳格な区分を果たした。
そして著者は、金融危機後にアメリカがとった方法、つまり「大きすぎてつぶせない」として、極めて投資銀行に有利な条件による救済策を批判し、政府による国有化と分割案を提示する。
確かに、政府による巨額救済がなされた後のアメリカは、投資銀行のみが息を吹き返す一方、失業率は高まり、景気の低迷から政府の税収は減少し、頼みの国債発行にも支障が出てきている。
まさに、かつて日本が歩んだ道と相似形をなしている。
そして、ソブリンリスクが高まりを見せつつあり、ヨーロッパ発の金融危機が足音を立てて迫りつつある今、著者のいうTBTF問題に立ち向かわなければ、世界中が長期にわたるりセッションに陥ってしまう可能性だけが高くなりつつあるように見える。
今のアメリカは実質的にウォール街による政府支配だとするのも頷ける。
「人はなぜだまされるのか」石川幹人著 講談社ブルーバックス ― 2011/09/25 14:32
ここ最近研究が進んでいる進化心理学についての解説書。 表題の通り人間はいかに合理的ではない行動をするのか、人類の進化の側面から解き明かしていく。
印象的なのは、
・有名なバスケットボールの試合中にゴリラが現れても気づかない場面。
・被験者の記憶を作り変えることができてしまう実験。
・恐怖症や怒りの感情は、進化の過程で説明できる。しかし今や必要がない感情である。感情をコントロールすることが人間関係を向上させる近道である。
・われわれが噂を信じやすいのは、小集団において協力関係を維持するためである。
・人間が地震災害などめったに起きない危険を考えないのは、近い将来の予測しか必要としなかった進化上の理由による。
などなど
逆に言えば、人間の行動は合理的で理性的なものではなく、様々な環境や条件で不合理であいまいなものが多いということであり、ここを理解しておかないと大きな誤りが生じることになる。
人間の行動がベースとなる経済予測があてにならないわけである。
そして、地球温暖化問題や環境問題、石油資源や水資源の浪費、はたまた各国で積み上がる国債など、「今さえよければいい」と思える人類の行動には、このような性質があることを踏まえておけば理解ができるし、解決のためには相当の困難が伴うと考えさせられる。
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