「パブリック」ジェフ・ジャービス著 NHK出版2012/01/08 15:03

フェイスブックに代表される実名での交流サイトが力を持ちつつある。実際に、アラブの春とも呼ばれる現象もこれらのツールが大きな力となったという。
 また、一方でウィキリークスのような、政府の機密情報が次々と暴露されていくツールには米国をはじめ多くの政府が危惧の念を抱き、実際に敵対的な行動に出たのは記憶に新しい。
世界におけるこれらの動きは、本書がテーマとする「パブリック」という概念を、改めて浮き彫りにする。
 本書は、ネット社会における「パブリック」と「プライベート」について、グーテンベルクの印刷機の発明になぞらえて多角的に分析し検討し読者に考えさせる。

そして、われわれに対しても政府に対しても「守るべき情報とは一体何か」と訴えかけ、原則は公開とすればそこから得られるものはとてつもなく大きいと我々を手招きする。
著者のいう「プライバシーの原則」は大いに参考になるのでぜひ本書を紐解いてほしい。

もうひとつ、マスとパブリックの比較も興味深い。
この点についての著者の意見も明快である。
本書におけるマスコミへの著者の議論には賛同したい。

そして、本書で提示される「スーパー・パブリック・カンパニー」こそ、これからの企業のあり方であるのは間違いがない。
そして、政府も全く同じである。

「新しい世界史へ」羽田正著 岩波新書2012/01/08 15:19

本書は、表題のとおり、今までの日本の世界史には色々な問題があるとして、「新たな世界史」のフレームワークを提言するものである。

その意味するところはよくわかる。
この国の世界史の問題点は大きく二つであるとする。
一つは、ヨーロッパと非ヨーロッパという二項対立的な概念。
そして、もう一つは時系列的な切り口である。

その上で、著者が提言するのは3つの視点である。
すなわち、(1)ある時期の集団を比較して世界の見取り図を描く、
(2)時系列史にこだわらない、
(3)横につなぐ歴史を意識する。

著者がこのような世界史を提言するきっかけは、ジャレドダイアモンドの歴史観と著者の主たる研究分野であるイスラム世界への独特のとらえ方であるという。

私も、ダイアモンドの人種(類人猿さえも)にとらわれない水平感覚には大いに刺激を受けたし、著者が披露しているバタヴィアでのオランダ植民地時代への嫌悪感は大航海時時代の歴史書でもよく触れられている。
むしろ、日本のヨーロッパ文化への憧景ともいえる独特な感覚こそが、異文化を積極的に受け入れてそれをうまく消化してきたのではないかとも思う。

いずれにせよ、著者の提示する「新しい世界史」の作業はこれからである。

「税と格差社会」林宏昭著 日本経済新聞社2012/01/08 15:29

本書は、日本における税制について格差とのかかわりからひとつひとつ検証し考察を進めている。
統計データが豊富で、新たな見方もいろいろと示してくれる。

たとえば
・平均民間給与は、97年をピークに減少を続けている。
・日本の財政支出の経済規模に対するウェイトは、アメリカに次いで低い。さらに、税負担に社会保険料負担を加えたものとなるとアメリカよりも低くOECD加盟国の中では最も低い。
・二人世帯で一人がフルタイム、もう一人が収入103万円であれば、基礎控除相当分は3倍適用される。
 一方で、どちらか一人が所得を得ている夫婦とそれぞれが納税者である夫婦では、同じ給与収入であれば前者の方が税額が多くなる。
・過去二度の消費税引き上げは、いずれも所得税減税とセットで行われた。したがって、税収に対してはフラットである。
などなど

また、今話題の給付付き税額控除についても手厳しい。マイナスの所得税すなわち現金給付を行うためには、プラスの所得税の税額を上げなければいけないとする。
同様に、子ども手当や生活保護などの現金支給は、同額の支出でより大きな給付となる保育などの公共サービスとは対極にあるとする。

以上を総合すれば、著者は現行の税制で色々と設けられている各種控除をなくし、所得税を中心とした再分配をおこなうことが、格差社会には有効という主張のように思える。

社会全体の給与水準が切り下がっている中で、所得税中心の増税については、議論が必要だが、国際的に見ても極端に少ない負担のうえにこの国の赤字は成り立っていることがよくわかる。