「議院内閣制」高安健将著 中公新書2018/06/10 20:12

主にイギリスの議院内閣制について論じた本であるが、本書の本質は最終章「政治不信の時代の議院内閣制―日本政治への合意―」にあると言っていい。
すなわち、近年のイギリスにおける国家構造改革は、貴族院改革、権限委譲改革、人権法の制定、司法改革、政治運営に関する暗黙のルールの法典化などイギリスにおける権力の中心である議員内閣制を外部から拘束しようとするものであり、これらの改革を著者は、権力を分散させ、透明性と手続きの明確化を志向する改革として、「マディソン主義的」と定義している。
一方で、我が国においては、経済財政諮問会議の設置や内閣人事局など内閣府と内閣官房の拡充と強化が顕著に見られ、近年の政治改革は自民党を集権的な組織に変貌させている。もともと議院内閣制は集権化をもたらすものとしているものの、透明性を欠く政策運営や、官僚制を含め公的機関の幹部人事を通した集権化により忖度政治など多くの弊害が生じているとする。加えて、マスメディアでも集権化する議院内閣制の弊害を指摘する。
そういう意味で、著者が本書を通じてイギリスがすすめてきた一連のマディソン主義的改革を紹介した意図は、政党間競争ともう一つ参議院という歯止めとしての存在があるという。

著者は最後にこう述べている。
「議院内閣制は、政治エリートへの不信を前提とするマディソン主義的システムによる支えを必要とするようになっている。」

長い歴史によって築き上げられ、絶えず改革を続けてきたイギリスの議院内閣制は、今も日本の政治制度の手本であり続けると思う。

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