「世界鉄道史」クリスティアン・ウォルマー著 河出書房新社2012/03/20 14:48

本書は、表題のとおり蒸気機関を使った鉄道の発明と世界におけるその広がりとともに、近代国家が成立し、経済発展とともに歩んできた歴史をたどる壮大な物語である。

特に、黎明期のリバプール&マンチェスター鉄道の大成功と、各国へのこの新技術の導入の過程がいきいきと描かれ、鉄道が世界経済の発展とともに広がりを見せていった前半が、新たな世界史を見せてくれる。
これら鉄道の勃興期には、政府の力はそれほど大きなものではなく、民間主導で投資資金を集めながら、各地のサトウキビやゴムなどの産物や鉄鉱石や石炭の輸送手段として大きな役割を果たしてきたことがよく分かる。
 また、一方で国家の統合に果たした役割も大きいという。典型的なのが、ドイツである。
 加えて、戦争での兵士の大量輸送という役割も大きかったという負の側面も描き出している。

それにしても、「鉄道の父」と呼ばれるスティーブンスンの名前が世界中いたるところに登場する。彼の功績がいかに大きなものであったかよく分かる。
また、第一次大戦後のドイツではプロペラ式の列車やロケット式の列車が開発されていて、今の高速鉄道に匹敵するスピードを記録していたというから驚きである。

このように、20世紀初頭まで大きな役割を果たした鉄道も、自動車時代の幕開けとともに衰退を余儀なくされる。
 その中で、近郊型の輸送手段としての鉄道と大都市間の大量輸送手段としての高速鉄道を発達させてきたのが日本であり、石油価格高騰時代を迎えた今、再び脚光を浴びつつある鉄道は、この国の再生のための大きなヒントとなりそうである。