「つながりすぎた世界」ウィリアム・H・ダビドウ著 ダイヤモンド社2012/06/12 18:07

シリコンバレーの創成期にスタンフォード大学で電気工学を学びインテルに籍を置いたこともあるベンチャーキャピタリストである著者が、現代社会はインターネットに象徴される「正のフィードバック」からなる過剰結合とによって不安定さを増しているという独自の視点から見つめた著作。

本書で一貫している「正のフィードバック」という著者独特の考え方が興味深い。
すなわち、「高度につながった大規模なシステムは特定の状況下になると必ず不安定になる」という数学者ウィグナーの論文をベースに、「規模が大きく複雑でダイナミックなシステムはある臨界値までは安定していたとしても更に結合度合いが高まると突如として不安定になる。」という人工頭脳学者アシュピーの補足を踏まえて、さらに一般化したものである。
ここでいう「正のフィードバック」とは、「ある変化がさらなる変化を生み出す」というものであり、結果の望ましさは関係がない。
さらに著者のこの考え方を補強したのが、チャールズ・ペローであり、彼は「非常に複雑で高度に結合したシステムでは事故が発生するのは当然であり不可避だ。そればかりか、安全性を高めるほどに事故が起きる蓋然性を高めてしまう。」とする。それを裏付けるため、原子力発電所のメルトダウン、化学工場の爆発、船の衝突など様々な災害を検証しているという。

ブラックマンデー、インターネットバブル、そして2008年世界金融危機への過程は、すべてこの過剰結合からもたらされたものであるとし、特にアイスランドという人口わずか30万人の小国が、世界中から金をかき集めて突如崩壊していった様が生々しく描かれる。

さらに、生産の海外移転の加速、新聞や旅行代理店・音楽産業の苦境、個人情報の流出、思考感染の増加、リアル店舗の減少など、「正のフィードバック」の負の弊害が噴出し、先進国では中流層の生活水準が低下し、金融システムが肥大化し、自由貿易、企業の市場独占など、すべてが極端な方向に突き進んでいるという著者の指摘は重い。