「米中海戦はもう始まっている」マイケル・ファベイ著 文藝春秋2018/03/08 08:08


本書は、2000年代に入ってからの米中のいくつかの軍事衝突事件を取り上げ、西太平洋上で「暖かい戦争」を繰り広げているとする。タイトルにやや驚いてしまうが、その内容を読み解いていくと、ここ10年ほどの間にますます挑戦的になりつつある中国の動きを背景として生じつつある、まさに米中間の新たな戦争であるということがよくわかる。

本書で取り上げられる事件は、2001年の南シナ海の公海上にいた米軍機に中国機が急接近を繰り返し衝突して制御を失った米軍機が不時着した海南島事件、2009年南シナ海の公海上を航行していたアメリカ海軍海洋調査船に対し中国船が取り囲んだインベッカブル事件、そして2013年公海上で中国初の空母遼寧の偵察をしていた米軍艦カウペンスに対し中国海軍が引き下がらせたカウペンス事件などを取り上げている。

特にカウペンス事件については、著者は「アメリカ海軍は西太平洋における自らの使命を見失っているように見える。」とし、現在のアメリカ海軍を象徴する事件であるとする。

さらに本書では、最近の中国の軍備の増強と進化について驚くべき事実を紹介する。それは、射程320キロのシザーミサイル、射程400キロの航空機発射型ミサイル鷹撃、そして通称空母キラーと呼ばれる射程3200キロの対艦弾道ミサイル東風である。これらのミサイルにより、アメリカは事実上空母打撃群を中国近海に派遣できなくなるという。

もちろん、アメリカの最新兵器であるレーザー兵器、レールガン、HVPと呼ばれるスマート砲弾、ズムウォルトと呼ばれる最新の軍艦なども紹介しているが、いずれも2020年代半ばから後半以降の配備となるなど期待薄であるとする。

これら米国の西太平洋におけるプレゼンスの縮小は、対中融和政策をとるオバマ政権によって加速してきたとしつつ、気まぐれながらもトランプ政権になり、カウペンス事件のようなクラッシュバック(後退)の時代は終わったとして結んでいる。

西太平洋における米中間の最新の軍事をめぐる動きが手に取るようにわかり、特に中国の際立った行動により、今後も同様の事件の発生が懸念される。
日本では十分報道されていない事件をよく知ることができるとともに、当然我が国も無関係ではいられない大きなテーマであると感じた。