「シルバー民主主義の政治経済学」島澤諭著 日本経済新聞社 ― 2018/03/13 08:28
本書の主題は、表題のとおり日本にシルバー民主主義は存在するかというテーマについて、掘り下げて検討するものである。
結論からすれば、現在の日本ではシルバー民主主義は存在していない。シルバーファースト現象が生じているだけであるとする。ここで、シルバーファースト現象とは政治側が期待できる得票数を世代別に比較衡量した上でシルバー優遇政治を選択することで、数的優位を背景として政策決定権を握った高齢者が政治にシルバー優遇政治を実現させるシルバー民主主義とは明確に区別をして検討している。
実際には政治は高齢世代にも非高齢世代にも配分しており、より大きな問題は将来世代への債務先送りであるとする。
本書では、統計データを使いながら、さまざまな統計的手法や経済学的アプローチを活用し、多角的かつ説得力のある論理展開が随所に見られる。
興味深いところをいくつかあげると、「高齢者1人あたり高齢者関係給付費の推移によれば足元では減少している。」「国際的には日本の高齢者関係給付費は総額が大きく見えるものの高齢者1人あたりでは水準が低い。」などである。
後半では、財政赤字の問題点に深く切り込み、無利子永久国債の問題点を指摘し、現在の負担先送り型財政モデルはいずれ破綻すると論ずる。
そして、現状の解決策として、独立財政機関を設置し経済財政見通しに対する正確な情報提供の必要性を論じている。
最後に、世代間競争を避けるための手法として、東日本大震災の寄付金額を例に高齢者には利他心があるとして、高齢世帯の利他心にうまく働きかけること。選挙制度として、ドゥメイン投票制度、世代別選挙区制度、平均余命投票制度、そして確率的投票モデルをあげている。
いずれにせよ、シルバー民主主義という不毛な議論は避けたいものであるとつくづく考えさせられた。
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