「会計学の誕生」渡邊泉著 岩波新書2018/03/24 05:58

★★★★☆

本書は表題の通り、会計学の誕生とその歴史について著した本である。多少なりとも会計学を学んだ者にとっては、非常に興味深い内容に仕上がっている。さらに、表題とは異なり本書の主題は最終章の、「会計の本来の役割」である。ここに著者の主張が詰まっている。考えさせられることの多い本である。

まずは、複式の簿記の誕生である。なんと現存する最古の勘定記録は、1211年のフィレンツェであるというから驚きである。そして企業全体の総括利益(今日でいう損益計算書と貸借対照表)を計算したのが同じくフィレンツェのコルビッチ商会の1332年から1337年までの記録である。さらに、これらを体系化して著作にしたのが、ヴェネツィアのパチョーリによる数学書「スンマ」である。
いずれにせよ、簿記の原型が今日のイタリアにて発祥し体系化されたということが興味深い。
なお、初期の会計実務では計算上のフローの利益ではなく、ストックによる実際の手元の利益を元に利益分配をしていた。

その後、オランダのステフィンによる数学的回想録によって、期間損益計算が制度として確立。ストックよりもフロー重視の考えが明確となる。そして産業革命を経て、減価償却が登場。アメリカにおいて職業会計監査人が生まれ、キャッシュフロー計算書が作られる。

そして現代。時価や為替の変動差益も包含した包括利益という考えと、取得原価に代わって公正価値という概念が入ってくる。
この、予測される将来の利益という考え方に対して、会計は予測計算ではなく事実計算に基づくべきであると著者は反論を展開する。 著者はこう言って本書を締めくくっている。
「歴史は会計の原点が信頼性にあることを教えてくれます。」