「石油の終わり」松尾博文著 日本経済新聞出版社2018/05/06 09:41

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表題とは異なり、中東を中心とした今の国際情勢と、シェールオイル革命によって進む勢力図の変化、パリ協定批准によるエネルギー戦略の方向性などここ最近の新聞記事によって耳にする話題をまとめたものである。
新聞記者らしく情報の整理がなされているものの、目新しいものはない。

本書で参考になったところは、パリ協定の内容と最新のシェール革命の姿である。

まず、パリ協定。
日本の目標は、30年時点で13年比26%減。50年には80%削減するという壮大なものである。
日本国内で温暖化ガスの80%削減を達成するには、地球環境産業技術研究機構によれば、電源の4割を原子力発電、残りを太陽光や風力、地熱、水力などの再生可能エネルギーで賄う必要がある。そしてCO2を回収する装置を持たない火力発電所は存続できない。さらに、自動車やトラックを全て電気自動車や燃料電池自動車に切り替えても、10億トンは減らせず、この部分を産業界が削減する必要があるという。 ところが、我が国ではこのパリ協定への道筋をどうつけていくのか、今ひとつ議論が盛り上がっていない。

続いて、シェール革命。
12年夏に日量600万バレルだった米国の原油生産量は、15年夏には同960万バレルとなった。この増量分はイランやUAEの生産量に匹敵するという。これが、原油価格の低下の引き金となった。そして、今シェール革命は、限られた産油国が主導する石油市場の秩序の終わりを告げた。さらに、米国第一を掲げるトランプ政権の原動力となったラストベルトもシェールオイルの生産地である。これが米国の内向き志向の源泉とも重なる。

このほか、原発再稼働問題、発送電分離や電力・ガスの自由化の動き、新興国への進出などエネルギー関連の話題が満載ではあるが、総花的な印象は拭えない。

「石油の終わり」というよりも、「OPEC支配の終わり」という表題がふさわしい。