「成長と循環で読み解く日本とアジア」篠原三代平著(日本経済新聞社)2007/05/03 13:30

経済学の大家(なんと88才!)が書いた長期景気波動からみた日本経済論である。

著者によれば、日本経済のバブルとその後の長期不況は、18世紀から数回繰り返された大きな景気の波動の中の一つの現象にすぎない。これは、統計的に十分実証できるものである。
 さらに、今の景気回復は、ひとえに中国輸出効果によるところが大きい。
ということになる。

また、日本における国債の累増は、確かに大きな問題だが、グロスとネットという概念を使って、かつ対外純資産も考えれば、それほど心配するものではない。
 さらに、イギリス国債のように、コンソル(永久債)という考え方もある。
 というものである。

88歳とは思えぬ、詳細な分析と、経験に裏打ちされた理論展開に、これからの日本経済も、そう心配するものではないと安心させられる。

「大転換」齋藤精一郎著(PHP)2007/05/03 16:42

 テレビでおなじみの齋藤精一郎氏によるこれからの日本経済への提言である。

 まず著者はバブル崩壊後に「15年デフレ」に突入した日本がこれを脱却するためにとった様々な政策がことごとく失敗し、小泉首相になってようやく脱却できたのはなぜかを分析している。
 「小泉パラドックス」と著者は言っているが、政府が何もしなかったためにかえって、企業は政府を頼らずようやく雇用にメスを入れ、結果として、今の景気回復がもたらされた。
 一方、その副作用として現れてきたのが、今の「格差現象」である、という。

 以上を概観した上で、日本が進むべき道を「海外投資立国モデル」「人材ハイブリッド立国」「ハイブリッド・コミュニティモデル」の3つを挙げ、これをベースに経済成長を果たせば、大幅な歳出削減や増税なしに財政健全化が果たせるとしている。

 私なりに解釈すれば、日本の文化には世界に類をみない独自性がある。日本的なものを輸出していくことが日本の生き残っていく道である、ということであろうか。

「脱デフレの歴史分析」安達誠司著(藤原書店)2007/05/13 17:57

デフレはようやく終息したといわれているが、原油高や鋼材などの原料高、さらには最近のバイオエタノールの需要増に伴う穀物高にもかかわらず、物価は沈静している。不思議な現象である。いまだ、デフレは完全には終息していないような気がする。

本書は、表題のとおり、過去のデフレ期の歴史分析から今回のデフレを分析し、その処方箋を述べたものたものである。
 著者によれば、日本経済が未曾有の景気後退に見舞われた「失われた10年」は、政策決定者による意図的につくられた円高によるところが大きいという。
 また、デフレから脱出するためには、インフレターゲットが必要であったが、政策決定者にとっては、まったく頭になく、これもデフレが長引いた原因の一つであるとしている。これは、約70年前の高橋是清氏の時代までさかのぼる。「歴史は繰り返す」わけである。

70年前のデフレが終息したのは、日銀の国債引き受けであったところは何か象徴的である。

NEC mobioNXのリカバリー2007/05/13 22:04

 私のサブマシンは、10年前の1997年11月に69800円で買ったNECのmobioNXである。このNXシリーズは、NECがそれまでの独自路線(PC98シリーズ)から決別し、PCAT互換機として出した初めてのシリーズである。
 Windows98SEまでバージョンアップし、未だ現役で活躍していたが、さすがに1.2ギガバイトのHDDではすぐに容量がいっぱいになり、整理していたところ、起動しなくなった。ちょうど、Windows media playerで音楽を聴くのにもブツブツ途切れて、重くなってきていたので、クリーンインストールをすることにしたが、これが想像以上に大変だった。

 まず、Windows95のインストールである。これが、付属のFDとCDを使うことになっているのだが、CD-ROMは標準ではNECの専用機でないとできない。これを、使えるようにするために、昔手に入れていたサポートディスクを使って、起動ディスクを書き換えた。 続いて、私の持っているアイオーデータのSCSIカード用のドライバのFDがないことに気がついた。インターネットで検索すると、アイオーデータのHPにドライバソフトがあった。Readmeに書かれていたとおり、Autoexec.batとConfig.sysを書き換えてようとしたが、そもそも、この二つのファイルが、WindowsXPでは、表示されない。したがって、ワードパッドで作成してから貼り付けることにした。この段階で、昔使っていたMS-DOSの知識が役立った。起動ディスクを作り直していざ起動したところ、しっかりとCD-ROMを認識してくれたときはほんとにうれしかった。

 次に、Windows98へのアップデートである。ところが途中で、ウィンドウを開いていないのに、「すべてのウィンドウを閉じてください」というメッセージが現れて止まってしまう。これは、Windows98が発売された当時のMicrosoftが無料で配布した冊子が役に立った。CDから、Win98のフォルダを丸ごとmobioのHDDにコピーして、MS-DOSからSETUPを実行した。ここでも、DOSの知識が役立った。

 その上で、今度はWindows98SEへのアップデートである。アップデートはうまく行き、もう一度Win98フォルダをコピーして、今度はHDDをFAT16からFAT32への変換をした。
 
 それから、コレガのイーサネットカードドライバをインストールして、LANケーブルでルータに直結してみたが、インターネットができない。今度はコレガのマニュアルが役に立った。98はXPと違って、ネットワークドライバを手作業で設定する必要がある。ようやく、LANケーブル接続でインターネットができるようになった。

 最後に、無線LANの設定である。NECのWL11Cという無線LANカードを設定するのだが、ここでも標準のCD-ROMのドライバでは、設定できず、以前ダウンロードしていたドライバを使って設定。それでも、ルータを認識できず、悩んでいたところ、SSIDの設定をしていなかったことに気づいて、ようやく認識完了。

 Windowsアップデートで、98の最新バージョンにして、壊れる前の環境に戻った。しめて丸二日。HDDの容量も増えて、スピードも速くなった。

「経済学的思考のセンス」大竹文雄著(中公新書)2007/05/19 11:18

 本書は「経済学」などと堅苦しく考えることはなく、人間の行動をインセンティブ(意欲)の面から切り取ってみると、通説とは異なる物事の見方、考え方が浮き彫りになるという本である。

 「自然災害に備える」では、ハザードマップの公開と災害保険税の創設を提案している。確かに、危険地域に住む人たちが税金が高いとなれば安全な地域への移転のインセンティブは働くだろう。
 また、「プロ野球における戦力均衡」では、なぜ日本のプロ野球人気が低迷しているのかを分析し、ファンを無視した球団の既得権がそもそもの原因であり、プロ野球機構そのものを株式会社化し、球団の参入の自由化やJリーグのような上位リーグと下位リーグの入れ替え制などを提言している。
 その他、年金未納は事実上の「ねずみ講方式」である今の年金制度に対する若者の逆襲であり、団塊の世代以上の既得権を崩さない限り年金改革は不可能であると断じている。

 さらに、最近よく言われる「格差社会」については、「誰が所得の不平等を不幸と感じるのか」という視点で、ヨーロッパとアメリカの対比を行い、日本は所得階層間の移動が難しい社会になりつつあるとしている。

 本書を通じて、経済学はお金をめぐる人間の“心理学”だと感じた。

「欲張りすぎるニッポンの教育」苅谷剛彦+増田ユリヤ著(講談社現代新書)2007/05/19 16:03

 いま、教育再生会議において、わが国の教育制度の改革案が議論されている。土曜日の授業復活や徳育の充実などが議論されているようだ。

 本書は、「総合学習」の導入について意見の異なる二人の議論から始まる。当初は総合学習を積極的に評価する増田氏と、総合学習の一斉導入には反対の苅谷氏とは議論がかみ合わないが、苅谷氏の主張の意味がだんだんと明確になっていく。
 ようやく最後の苅谷氏の記述で、種明かしがされる。そこには、「自ら考える力が大切である」という割には、教育予算が削減され、高い能力を持った教員養成の時間も割かれず、制度としてのみ全国一律に改革がなされた結果が今の教育の現状である。
 そういう中で現れつつあるのが、教育における「格差」の拡大である。

 また、「学力が世界一」と言われるフィンランドの取材を通じて、日本の教育内容とは基本的に大差がないとしている。

 本書を通じて日本の教育は、基本的には何も変える必要がない、ただし、教育にかかる予算と教員養成のための時間さえ増やしてくれればいいのではないかと感じた。

「障害者の経済学」中島隆信著(東洋経済新報社)2007/05/20 20:58

 重いテーマであるが、表題の通り、障害者をめぐる国の施策と、障害者とその家族について、経済(インセンティブ)の面から分析し、提言した本である。

 一貫して、障害者を特別扱いせず、自立した人間として扱うことの重要さを説いている。
 その意味で、2005年に成立し施行された(障害者自立支援法)について評価をしている。ただし、欠けているのは、保護者の視点であるとしている。
 最後jまで読んで、著者が障害者の親であることが種明かしされる。

 障害者をめぐる今の日本の問題は、普通の日本の家庭の問題とまったく同じであると示され、目を醒まされた気がした。

「ウェブ進化論」梅田望夫(ちくま新書)2007/05/26 11:06

 マイクロソフトのビスタが売れていない。企業向けはともかく、家庭向けは全くと言っていいほど盛り上がらない。そのためここへ来て、キャッシュバックキャンペーンなどを始めたようだ。一時の元気の良さは感じられない。

 本書では、マイクロソフトやヤフーは、ネットの「こちら側」の企業、グーグルやアマゾン、ウィキペディアなどが「あちら側」の代表として、解説している。
 特にグーグルには、ウェブの革新的な要素が多く、多くのページを割いている。確かに、今や検索エンジンといえばグーグルの精度の高さは圧倒的であるが、そのビジネスモデルは誰にもまねができないし、Gmailの容量は他のウェブメールを圧倒している。このシステムが、オープンソースのLinuxで30万台以上のサーバーから構築されているという。
 また、まだベータ版ながらGoogle Docs & Spresdsheetsは、無料とは思えないほどの機能で、ネット上にデータをおけることから、これからの主流となりそうな予感を感じさせる。
 
 オープンソース現象と、ブログやウィキペディアなどのマスコラボレーションの流れから、不特定多数の「個」の集積によって作り上げられる集合知に、これからの可能性が感じられる。

 ネットの「あちら側」が、進化していく方向が見えたような気がする。