「アジア三国志」ビル・エモット著(日本経済新聞出版社)2008/07/20 08:51

本書は「日はまた沈む」「日はまた昇る」と、日本経済について深い分析をしているビル・エモット氏によるアジアの展望を著わした本である。

台頭する中国・インドと日本の三国それぞれの現在にいたる経済分析を行ったうえで、それぞれの国が抱える問題と、歴史的な問題や国境問題を踏まえ、これからのアジアのパワーオブバランスを大胆に予測している。 
 単純にいうならば、これら3国は、難しい力関係にあり、またさまざまな不安定要因を持っている。

特に、第9章の9つの進言は、われわれが進むべき方向性として、おおいに参考になる。

本書の最後に印象深い言葉がある。「ある意味で、アジアはすでにひとつになっている。」

「世界を不幸にするアメリカの戦争経済」ジョセフ・E・スティグリッツ著(徳間書店)2008/07/20 14:38

サブプライムローン問題に端を発したアメリカ経済の先行きが怪しくなっている。原油高も、アメリカの株式市場から投機資金が逃げ出して、もたらされたというのが通説となっている。

これは、反グローバリズムを一貫して主張し続けてきたスティグリッツ氏によるイラク戦争への批判の書である。
 氏の分析によると、イラク戦争のためのアメリカが支出するコストは将来分も含めて、なんと3兆ドル(!)に上り、すでにベトナム戦争を上回っているという。
 また、現在の原油高のきっかけは、明らかにイラク戦争による中東情勢の不安定化が大きい。
 今のイラク情勢を落ち着かせるためには、派兵による増派しかないというのが定説のように思われるが、著者はそれも無駄なことと切り捨てる。

以上を踏まえた上で、直ちにイラクからの全面撤退を主張している。
 加えて、今回の反省から同様の過ちを繰り返さないために、18の具体的な提案をしている。

これからの大統領選が見ものであるが、新政権がイラク問題をどのように取り扱うにせよ、アメリカの支払った代償はあまりに大きい。

「保守はいま何をすべきか」中西輝政×八木秀次(PHP)2008/07/20 17:28

本書は、保守の本流を自負する中西氏と八木氏の対談という形式を取っている。

安部内閣崩壊の真相、今になってなぜ従軍慰安婦問題や、沖縄戦の集団自決問題が何度も出てきたのか。ここ最近の、マスコミ報道の背景を初めて知った。

保守の思想にはややついて行けないところがあるものの、テレビや新聞報道だけでは見えてこない、情報操作の裏側が見えてくる。

中西氏は、アメリカ経済の衰退をきっかけに、ここ一二年のうちに経済や金融を中心にいろいろなことが起こると予想している。
 また、我が国の財政の数字を見れば、遠くない将来、完全な崩壊もあり得るとも言っている。
 しかし、十分な自己反省をおくことにより、豊かな歴史認識の上に立って、公の観念を体現した本当の日本人が生まれてくるとしている。

アメリカ一辺倒で思考停止してきた日本も、そろそろ普通の国家として仕切り直すべき時である。

「デフレは終わらない」上野泰也著(東洋経済新報社)2008/07/26 20:51

消費者物価指数が上昇している。ニュースによれば15年ぶりの水準であるという。これは、ガソリンやパンなどの食品類の価格を見れば生活実感にぴったり合っている。

ところが、本書で著者は表題のとおりデフレはまだ終わっていないという。その理由は、海外発で、コスト上昇分が価格に上乗せされただけであり、食料・エネルギー以外の部分には価格上昇しておらず、わが国の需給環境からみて物価は上がりにくく下がりやすいのだという。

また著者は、人口減少でゆとり社会が到来することはないとしている。その典型は、地方都市の現実だという。
 そのほか、「金利は上がらない」、「これからは有事のドル売りは本当か」、「格差を前提に投資する」などなど、ここ最近の論調について、具体的根拠を示して、反論している。

確かに経済に対する見方はさまざまであり、どれが本当か一概にいえない場合が多い。
 マスコミ報道などに流されずに、自分の頭で考えて行動することが大事だと教てくれる。

「中国が偉大になれない50の理由」デイヴィッド・マリオット、カール・ラクロワ著(ランダムハウス講談社)2008/07/26 21:31

中国に関する書物は数多い。ここ最近では、本書のように批判的な書物が増えている。

本書は、中国の英字紙「上海デイリー」の記者である二人が、自分たちの足で取材し、膨大な資料を踏まえて作られた中国の現実である。

チベット問題、農村の貧困、汚職にまみれた共産党幹部、大気汚染、汚染された野菜や魚や加工食品や玩具の輸出、民族大虐殺をしたスーダン政府への援助、言論統制などなどかずかずの問題点を洗い出している。

それにしても、中国は本当に問題の多い国であることに唖然とさせられる。これだけの大国が、驚異的な経済発展をしてきたのだから、ゆがみも大きくなるのはやむをえないとしても。

すくなくとも、近未来の中国はバラ色ではない。

「格差と希望」大竹文雄著(筑摩書房)2008/07/27 16:12

本書は、2005年から2007年にかけて、著者が日本経済新聞と週間東洋経済に連載していた記事をまとめたものである。

当時の経済に関する出来事と、それに対する識者の論説を紹介したうえで、著者の考えを述べている。

本書の主要テーマは、表題の通り「格差」である。ちょうどNHKで放映された「ワーキングプア」をきっかけとして広まった格差問題に深く切り込んでいる。著者の分析によれば、不況期に企業は正社員の既得権益を守るために賃金には手をつけず、新規雇用の抑制と非正規雇用の増加で対処してきた。これにより、若年層の間で格差が広がった。同時に、正社員の長時間労働化が問題となった。というもので、格差論の背景には、労働組合も含めた既得権者の存在があるという。

格差解消のためにわれわれがなすべきことは、規制緩和をやめることではなく、若い人たちに必要な教育をさらに充実させることだとしている。

格差論にはいろいろあるが、ここ最近の格差論を概観したうえで、あるべき姿を論じており、客観的でかつ経済学的思考のうえに書かれている好著である。