「世界は分けてもわからない」 福岡伸一 講談社現代新書2009/09/13 23:24

今回の彼の著書も、まるで映画を見ているかのような各章の表題と、美しい文章と生命の不思議さが織りなす交響楽のような本に仕上がっている。

本書にあるのは、生命とは何かを探求し続けた著者だからいえる、生命の不思議さである。それは、どこかあきらめ、いや壮大な神や宇宙を前にして、敬虔な感情を持つ感覚にも近い。

本書にも、著者の哲学を形づくっているいくつもの話がちりばめられている。
 夜空の星が見える不思議さ、ゲティ美術館にある絵の由来。国境を隔てる二つの写真。
 そして、後半のがん遺伝子のリン酸化を説き明かしていくスペクター事件の話はどのような物語よりも面白い。

「動的平衡」という彼の思想がここにも貫かれ、まったく新たな、生命への視点が開けてくる。