「道路整備事業の大罪」服部圭郎著 洋泉社2009/09/21 13:52

よく政治家は常套句のように「道路ができれば、豊かになる。地域が活性化する。」というが、現実には、道路ができれば人口が流出する。商店街の衰退が加速する。本書では、そういう現実をいくつも突き付けている。

東京湾アクアラインができて地盤沈下した木更津市。本四連絡橋ができて橋のない島に比べて人口流出が進んだ坂出市。道路ができて過疎化が進んだ南牧村。道路ができると郊外ショッピングセンターができ、ストロー効果によって壊滅的な打撃を受けた宮崎の中心商店街。道路を整備すればするほどひどくなる渋滞。
 政治家がよく口にする地方と都市の格差を解消するために道路を整備しても、都市の求心力が強くて結局は地方にとっては人口流出が加速しマイナスとなる。
 さらに、道路を災害時のライフラインとして位置づけるところもあるが、サンフランシスコ地震や阪神大震災などの例を挙げ、道路はまったく役に立たないと切り捨てている。
 また、世界で破たんしている自動車優先都市として拡大しすぎてしまってインフラが追いつかないロサンジェルスと歩行者が道路もわたれないブラジリアを紹介し、その負の側面を見せつけられる。

その上で、道路整備にノーを突き付けて繁栄している事例を挙げている。
 10本あった道路計画を7本に減らし都市鉄道を整備し住みやすさの評価の高いサンフランシスコ。二つの高速道路計画を廃止にし、独自の魅力のある大都市ニューヨーク。高速道路建設に40年間反対し続け、地方都市のよさを残しているサウスパサデナ。高架道路を撤去して清流を取り戻したソウル。世界で初めて自動車を排除し賑わいを取り戻したストロイエ。舗装道路を作らないことで自然環境を残し世界遺産に登録されたフレーザー島。高速道路を撤去し、ライトレールを整備して衰退した都市を再生したポートランド。道路整備が進まなかったことで盛況を続けている三島市の商店街。道路整備を拒否し、田舎らしさを魅力としている馬路村。などなどいくつもの事例を挙げ、道路整備に頼らずにむしろ成功している事例を見せてくれる。

地域の再生へのヒントがここにある。

「地球全体を幸福にする経済学」ジェフリー・サックス著 早川書房2009/09/21 18:40

あの「貧困の終焉」により、貧困問題について多くの提言をしているサックス氏の最新作である。

人類が資源を浪費し温暖化に伴う気候変動、深刻化する水不足、環境汚染、多様な生物種の絶滅、そして著者が最も危惧する人口問題と貧困。

前半ではいくつもの進行する問題を提示し、背筋が寒くなるような気がしてくるが、後半になると著者は持ち前の明るさで解決策を提示してくれる。
 その解決策については、本書を読み解いてほしいが、ここでは印象に残る点を示すにとどめる。現代アメリカの拡大する不平等に対して、富裕層への減税やイラク戦争の終結など2パーセントの財政支出によって貧困層への大きな支援ができるという。また、かつてのアメリカのマーシャルプランに見られるように、援助こそが海外の安定に役立つとともに結果としてアメリカの安全保障にも貢献していることを歴史的に示しているとともに、ブッシュ政権は貧しい国へのわずかな援助も行っていないと批判している。

著者が示す処方箋は決して楽なものではないが、この地球を未来の子供たちに残していくために、何をしなければならないのか、一石を投じたことは確かである。