「人間にとって科学とは何か」村上陽一郎著 新潮選書2011/05/09 21:11

3.11の東日本大震災と福島第一原発事故がわれわれにもたらした感覚は、人間が手に入れたと思っていた科学技術は自然災害に対してほとんど役に立たないという現実である。

本書は、原子力についてはほとんど触れられていないが、まさに「科学」と「社会」との関わり方を考えさせてくれるとてもいい機会を与えてくれる。

・遺伝子組み換え技術とその封じ込めのためのガイドライン。 ・患者本位という視点をもった医療のあり方の提言。 ・科学者が法廷に立ったときの違和感。 ・「トランス・サイエンス」という考え方に立ち、100%最終的な意思決定には活用できない科学。 ・なかでも科学技術が発展すると「天災」が「リスク」に変化するという話などは、今回の震災にぴったり当てはまってしまう。 ・すでに、科学は決定論的世界ではなく確率論による多様な結果が予測される世界に入って久しいにもかかわらず、今もなお科学者に期待される因果関係。 そして社会における意思決定は、常識という判断とともに、住民参加型の意思決定が求められるという主張にもうなずける。

また、著者はトクヴィルによってはじめて定義された「デモクラシー」について、詳しく解説したうえで、日本では「公」という言葉に問題があるとする。

いずれにせよ、この国で進む「社会に役に立つ」という科学への要求に対して、著者はそこに誤用があるとし、「知識のための知識」の大切さを説いている。

社会に役に立つためとして科学を活用してきたつけが、今現れてきているような気がしてならない。