「フォールト・ラインズ」ラグラム・ラジャン著 新潮社2011/05/25 07:44

表題は「大断層」という意味だそうである。 その意味は、二通りに使われている。 すなわち、 今回のアメリカの金融危機に至るまでのきっかけには、富裕層と貧困層の間の大きな格差=深い断層があった。 これを埋めるべく、住宅ローン市場を活性化した。

そして金融危機後も、輸出に依存するドイツや日本そして新興国などの貿易黒字国と赤字国との不均衡の構図は埋まらない。 ここにも大きな断層があり、これを埋めるような方向づけを国際協調の場で進める必要があるというのが著者の議論の要点である。

本書に登場する日本は、金融危機後の長い低迷から抜け出せない衰退して行く国であり、金融危機後のアメリカも同じように不良資産を抱えてしまい日本と同様の道筋をたどる可能性が高いとしている。 そして、中国である。 人民元問題が輸出ドライブをかけ続けていると指摘し、むしろ世界の不均衡是正のためにも元を正常な形で切り上げていくべきとする。

また、アメリカのセーフティネットが他国に比べて脆弱なのはなぜかという分析が興味深い。 アメリカの場合は、景気が低迷すれば傾きかけた企業を切り捨て、新しい企業に資金を提供して再編を行うことに主眼がおかれているためとする。 一方で、AIGの救済時に「システム的に重要で破たんさせる訳にはいかない」という議論があったが、モラルハザードの観点からこれを著者は批判している。これに加えて、預金保険の廃止まで提言している。 これは日本ではなかなかできない議論である。

金融をめぐって、世界は今多くの問題を抱えており、それを国際協調の場で埋めていこうとする著者の方向性は支持したい。