「世界経済大いなる収斂」リチャード・ボールドウィン著 日本経済新聞出版社 ― 2018/03/21 05:46
グローバリゼーションについて、人類の過去の歴史を振り返り、今進行しつつあるグローバリゼーションとこれからの未来を読み解こうとする意欲的な本。
トランプ政権が保護主義的な政策を打ち出してきている今、世界で進みつつあるグローバリゼーションを的確に読み取る上で、最適な書物となっている。
まず、本書では産業革命以降第二次大戦後を第一のアンバンドリングとして論じている。
第一のアンバンドリングの終焉は、イギリスが覇権を失い国際関係が無政府状態に陥って、とどめを刺したのが悪名高いアメリカの関税引き上げであった。これをきっかけに世界はブロック経済に突入していく。トランプの保護主義的姿勢はどこかこの時代を想起させる。
そして第二次大戦後のGATTラウンドでの関税引き下げをきっかけとして、北(大西洋諸国と日本)は工業化し、賃金と生活水準は大幅に上昇した。
そして今に続く第二のアンバンドリングである。それは、北から南に製造業がシフトしたことから始まっている。その要因は発展途上国が輸入関税の引下げや二国間投資協定にみられる開放政策への転換をきっかけとしている。さらに、貿易コストの低下、ICTコストの低下、対面コストの低下がこれを加速させた。そして今や競争の最前線は複数の国にまたがる生産ネットワークとなっている。この状況では、付加価値のほとんどがG7企業を中心に生み出されている。一方で製造そのものによる付加価値はどんどん低くなっている。本書ではその事例としてユニクロやダイソンそしてトヨタを取り上げている。
本書で注目すべき著者の主張は、オールドグローバリゼーションの見方をいまだに引きずっている考えが多いことへの警告である。
例えば、TPP協定の締結に向けて、マンキューがオバマ大統領に向けて寄稿した文書に、古い比較優位の理論を持ち出していることに対して、
「そうした政策の大半は今のグローバリゼーションには適さない。今日のグローバリゼーションは変化が急で、効果が個別化し、政府がコントロールするのが難しく予測がつきにくいものとなっている。」
と批判している。
そして、グローバリゼーションの未来については、対面コストの低下、すなわちヒトを移動させるコストが急激に下がれば、弟三のアンバンドリングが始まる可能性が高いとする。そして、AIとともにRI(遠隔知能)が大きなインパクトをもたらす可能性が非常に高いとする。
国家という枠を超えて進展している今日のグローバリゼーションを読み解くのに最適なテキストとなっている。
改めて、われわれはいまだに古い国家という概念にとらわれすぎている、とも感じた。
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