「親米日本の誕生」森正人著 角川選書2018/03/25 06:16

★★☆☆☆

敗戦後から現在へと続く日本のアメリカとの関わりを、戦後の出版物や広告を辿りながら読者に考えさせる著作。

まずは、占領下の日本の風景。
そこには、1941年の真珠湾攻撃からわずか7年後に「憧れのハワイ航路」を歌う日本人の健忘症とでもいうべき見事な転換がある。その背景はアメリカの物質的豊かさであり、民主主義である。著者はそれを、物質がもたらす快楽の刺激によって主体的に日本人が選択したという。

本書で注目すべきは、戦後の理想的な家庭と考えられた姿は、性差に基づく分業を想定したものであり、それは戦前日本にはなかった価値観であるとする。
それは、女性向けの雑誌に典型的に現れ、「民主的な家庭を目指す生活改善、その中での食生活改善は女性を生命の再生産の担い手とする。女性を家事に特化した性とするだけではなく、産む性とする思想が透けて見える。」という。
さらに、「おふくろの味と呼ばれるものは、…敗戦後の食生活改善において食卓に科学的、合理的に置かれたものである。」という指摘も興味深い。 またインスタント食品については、「インスタント食品の登場が主婦の家事の合理化の契機となり、その結果として共働きやレジャーへの関心が高まったとも言える。」とする。

本書の後半には、戦後登場した様々な家電製品の広告が登場する。その製品が登場した頃の時代背景が感じられて、とても興味深い。本書では、男性誌、女性誌ごとの広告の違いや、車における男性女性の扱いの違いなどを巧みに捉えて紹介している。

そして、ケンとメリーのスカイラインの広告、雑誌ポパイの創刊などを通じて、アメリカ神話の終わり、戦後の終わりとしつつ、「日本的なもの」の多くはアメリカ神話を日本において咀嚼しながら作った次の段階の神話であると断じている。

改めて、われわれ日本人に物質面、精神面においてアメリカという存在が大きく関わってきているのか、感じられる。
と同時に、それらをいかにうまく日本人的に取り込み消化してきたのかがよくわかる。

政治や経済、地政学的な立場とは切り離して、あくまで物質的な面から切り取った日米戦後史である。

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