「移民の政治経済学」ジョージ・ボージャス著 白水社2018/05/02 06:19

★★★☆☆

今我が国では、深刻な人手不足を背景に、29年10月時点で外国人労働者が128万人と過去最高になっているという。

本書は、キューバからの移民である著者が、経済学や統計データなどを駆使して、移民がもたらす様々な影響を検討したものである。

まず、前提条件として、
「労働者の二国間の移動と財の二国間の移動を同じものとしてみる。すなわち、移民が我々の文化的、政治的、社会的、経済的な生活には全く関与しない存在で、社会保障制度にも影響を与えず、政治の政界における力関係にも変わらない、とする見方に立てば、経済にプラスの影響を与えるという前提は誤っている。」という立場から議論を始めている。

その上で、
1950年代にトルコ人を一時的な出稼ぎ労働者として受け入れてきたドイツでは、現在トルコ人移民の割合が4%に達し、いかに彼らをドイツの社会に溶け込ませるかが大きな政策的課題になっている。
とし、移民は労働者ではなく生身の人間だとして考察して行くことが必要であるとする。

本書では、労働市場への影響、移民余剰という経済学的分析、財政への影響、経済的同化、など詳細な分析をした上で、以下のようにまとめている。

移住を決断した人々の背景は地域や国によって多種多様である。 ・全ての移民が受け入れ国で同化するわけではない。
・過去の米国では人種のるつぼが異なる民族グループ間の同化を進める役割を果たしたが、およそ1世紀の期間を要した。
・移民は、移民余剰を生み出す。ただその割合は一般に考えられているものより小さい。
・受け入れ国が福祉国家出る場合、移民余剰となる利益は移民による社会保障サービスの利用に伴う損失で相殺される。

最後にこう述べている。
「欧州の状況を見れば、社会に同化しないマイノリティの大規模な集団がいることで、国民の間に不安が広がり、トラブルの種になることがわかる。少なくとも移民を社会に同化させる過程における政府の役割を再考すべきだ。」
「移民政策には困難で回避できないトレードオフがあり、そうしたトレードオフは専門家による数式モデルや統計分析だけでは測れないものだ。」

丁寧でかつ説得力のある著作である。
今日の日本でも、様々な場面で外国人労働者の増加が見られる。本書が日本におけ外国人労働者受け入れに関する議論に大いに参考になるとものと考える。