「銃・病原菌・鉄」ジャレド・ダイアモンド著(草思社) ― 2007/08/25 10:38
変わった題名の本であるが、本書を読み進めるとすぐにその意味がわかる。著者が、あるニューギニア人から受けた、「現代の世界の不均衡はなぜ起こったのか」という疑問への答えがこの表題である。
最もわかりやすいのは、スペイン人とインカ帝国の激突の場面である。馬と鉄製の武器は圧倒的な力の差となったが、それ以上に大きかったのがヨーロッパからもたらされた病原菌である。天然痘によって、人口の95%も減少したという。
また、同じ人種でも、その土地の環境によって、社会の発展段階が全く異なる結果になるという。ポリネシアに広がっていったオーストロネシア人たちが、それぞれの島の環境に合わせて、寒冷な地域の狩猟生活から、ハワイに見られるような豊かな土地にできた王国まで、実に多様である。
著者が主張していることは、今の人類の繁栄を築いているのはヨーロッパ系の人種であるが、これは「たまたま」ユーラシア大陸からもたらされた様々な農産物や人間に従順な家畜や、統一しなかった国々があった結果であって、条件さえ異なれば、他の人種がリードしていたかもしれないということである。
不思議なことに、1500年頃までは、世界の最先端を行っていた中国が、なぜ停滞してしまったのか、それは、中国が統一国家であったためにたった一つの決定で、船団の派遣を中止し、そのころ始まっていた産業革命を禁じてしまったたことによるという。一方、ヨーロッパでは、政治的に統一されていなかったことが幸いし、新世界に各国が争って進出し、新たな技術を取り入れていった。このことが、それ以降の決定的な発展の差となっているという。
この指摘は実に興味深いし、これからの中国の行く末を暗示している。
本書は、壮大な人類の今に至る進化の物語である。このような遠い過去を振り返ると、数千年単位の遠い未来へのヒントが見えてくる。
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