「タイムマシン開発競争に挑んだ物理学者たち」ジェニー・ランドルズ著(日経BP社)2007/09/08 16:40

本書は、「時間」という切り口から、アインシュタインの相対性理論から、ブラックホール、ワームホール、超ひも理論まで、紹介されており、物理学の入門書としても優れている。

  この本の中で、興味深かったのは、まえがきにあった光の速度を時速60キロまで減速させたハウの実験。それから「量子テレポーテーション」である。対になって発生した素粒子は、どんなに離れていても片方の特性が変わるともう片方の特性が直ちに変わるという量子もつれの効果はなんとも不思議な現象である。

一方で、タイムマシンの実現のために、現実に取り組んでいる人たちを紹介しているのがなんともおかしい。

タイムマシンの実現をもっともらしく書いているが、その中で物理学の最新理論がわかりやすく取り入れられて、実に興味深く読めてしまう。
 もしかしたら、現実にタイムマシンができる日も近いのかもしれないという期待を抱かせてくれる本である。

「セックスはなぜ楽しいか」ジャレド・ダイアモンド著(草思社)2007/09/17 18:13

表題を見るとなにかいろいろと想像してしまうが、本書はいたって真面目に、科学的に人類のなぞを解き明かす本である。

すべてを公平に見るジャレド博士らしく、ヒトを特別扱いせず、ほかの動物から見たおかしなヒトの行動を、一つ一つ解き明かしていく。

なぜ、ヒトは排卵期をまったく知らずに、子供の生まれそうにない時にもセックスをするのか。
 なぜ、隠れてセックスをするのか。
 女性にはなぜ閉経があるのか。

これらの特質は、ほかの動物にはほとんど見られない。
それはなぜなのかを本書を通じて解き明かしていく。

ヒトの子供は、大人になるまで非常に長い期間親の元で育てられる。これがひとつのポイントとなるようである。すなわち、父親を家にとどまらせるという目的である。これが、「楽しみのため」という動物には見られない行動をもたらしたというわけである。また、ヒトの女性は出産にあたって高齢になればなるほど死ぬリスクが高くなる。これが閉経のひとつの要因であり、また、閉経後の女性は働き手として重要な役割を果たす。

  これらの、分析は著者のニューギニアなどのフィールドワークを通じて得られたものであり、説得力を持っている。

いずれにしても、タブーとも思われる主題をこのような切り口で見事に解き明かしてくれる著者には、拍手を送りたい。

「人間はどこまでチンパンジーか」ジャレド・ダイヤモンド著(新潮社)2007/09/30 19:09

表題の通り、本書は生物学的に見た「ヒト」の動物の中での特性を浮き彫りにしていく意欲作であり、ヒトは第三のチンパンジーであるという。

著者の人間を見る目はどこまでも公平である。
 人類は決して特別な存在ではないし、白人が優れているわけでは決してない。
 ナチのユダヤ人大量殺戮に見られるようなジェノサイドは特別な出来事ではなく人類史にふつうに見られるものであり、人間の本能と言っていいものである。

また本書は、環境問題を考えるにあたっても多くの事例を示して、考えさせられる。イースター島の悲しい歴史、アラビアのロレンスの舞台となった西アジアの森が砂漠となった歴史などなど。

残念ながら、人類は過去の歴史にも学ばず、石油資源を食いつくし、地球温暖化にも歯止めをかけられず、このままイースター島のようになってしまうのか、というようなあきらめにも似た感覚を持った。