「最強国家ニッポンの設計図」 大前研一著 小学館2009/11/01 16:19

雑誌SAPIOに連載していた記事を加筆修正したもの。とはいえ、リーマンショック後の世界同時不況や、民主党への政権交代についても触れられており、構成からみても新刊本として読める。

大前流のボーダレス経済という視点から、この国の設計図を描いており、あの平成維新のころと変わらない一貫した考え方で貫かれている。 年金、税金の大改革、新エネルギーへの投資、農業の改革、教育と雇用、憲法改正と道洲制、外交と防衛戦略などなど、大胆かつユニークな提言がちりばめられている。

そして残念ながら、「日本がアメリカ化し始めている」という指摘は、おそらくあたっているように思うし、本書の後半で述べられているドルの信任失墜による「アトランティックの戦い」は、近未来を言い当てているようで空恐ろしい。

この国はそれまでに、「最強国家」とは言わないまでも、普通の国になってほしいが、果たしてそこまでの時間的余裕は残されていないのではないかという気がしてならない。

「秘密とウソと報道」日垣隆著 幻冬舎新書2009/11/07 20:28

戦後のジャーナリズムがかかわった大きな事件を題材に、著者独自の視点からここ最近に見られるジャーナリズムの危機に切り込んでいる意欲作。

著者もジャーナリストであるせいか、大きな事件の陰にあったわれわれの目に触れないような裏話まで披露してくれるところが実に面白い。 それにしても、捜査資料を無断でコピーする奈良少年供述調書漏えい事件や、情を通じて機密資料を入手した西山事件、泥棒をして書物にしてしまうサンダカン八番娼館の問題などなど今のマスコミに通じるスクープ報道とは一体何のためにあるのかと疑問に感じてしまう。

このほか、マスコミの周辺にたびたび現れる「空想虚言癖」の人物にやすやすと引っかかる週刊誌、賠償額が高騰する名誉棄損訴訟などなどジャーナリズムに起こる問題を著者独自の視点で切り込んでいる。

ここ最近の新聞や雑誌の凋落ぶりを危惧しつつ、明治時代にあったような週刊誌的な新聞を取り上げており、これからの新聞の一つの方向性を見せてくれている。

「地球の法則と選ぶべき未来」 ドネラ・メドウズ著 ランダムハウス講談社2009/11/08 14:18

心に染みいる本です。
 環境について、考える機会の増えた今こそこのような本が輝きを増していると思います。

世間では今、不況の真っ只中で物が売れないと言っています。各国は、景気対策として補助金をつけて新車や家電製品の購入意欲を高めようと必死です。
 残念なことに経済学では、より多くの消費によってのみわれわれは豊かになるとして、GDPの水準でしか物事を考えていません。 著者は、今までの経済学の考えに地球という有限の世界、環境という考えを融合させようとしています。

「足るを知る」この言葉こそ、これからの地球の未来を左右するくらいのとても大切な言葉だと思えて仕方がありません。

これからの経済を考えるうえで大切な指標。モノを購入することによって得られるささやかな満足感ではなく、人々の幸せの度合いを計るいわば幸せ指数というようなもの。
 これからの永続的な経済を考えるためのヒントがここにあります。

「日本国の正体」長谷川幸洋著 講談社2009/11/08 21:51

本書は、官僚が政治家を牛耳り、マスコミも牛耳っている実態を新聞社に30年勤め論説委員をし、政府の審議会委員もしている著者が、官僚べったりの立場から“転向した”記者の目を通して描かれている。

 ここ最近立て続けに起きた妙な事件~中川昭一氏の酩酊会見、高橋洋一の窃盗事件、小沢一郎の政治献金問題には、財務省の策略があるのではないかとの推測には、どこか説得力がある。

様々な事例を通じて、この国の権力の正体は間違いなく官僚機構にあるとし、メディアも官僚の思うがままに情報操作されていると著者の体験を通じて断じている。

そして、今の記者クラブ制度に頼るのはやめて、記者が独自の意見を記事にしていくような仕組みづくりを提言している。

ここのところ、新聞やテレビがますますつまらなくなっているのはこういうことなのかと納得させられた。
 新聞やテレビの凋落が始まったのはどうやらインターネットの普及だけではなさそうである。

政権交代が起きても、予算額の削減どころかとんでもない数字に膨れ上がってしまうのも、政治力の限界ではないかと考えさせられた。

どうやら、今の政権にも官僚制の打破は掛け声倒れに終わってしまいそうな気がしてならない。

「検察の正義」 郷原信郎著 ちくま新書2009/11/12 20:40

コンプライアンスについて、「社会的要請に答えること」と定義し、「法令遵守」という訳語からくる誤った運用に強い警鐘を鳴らし続けてきた郷原氏の現在に至る経歴と、在籍していた検察庁の問題点と方向性を示してくれた好書である。

理学部出身という経歴であるにもかかわらず民間会社から司法試験を受けて検事になったという経歴からか、客観的に検察を見つめ批判すべきところを理論的に展開しているところはさすがである。

庶民感覚から見ても、ここ最近の検察の動きは明らかにおかしい。
 本書が検察のありかたを「社会的要請に答える」ように変えるきっかけになればと願いたい。

「トイレの話をしよう」ローズ・ジョージ著 大沢章子訳 NHK出版2009/11/15 15:11

表題のとおり、普段われわれがあまり話題にしたくないもののひとつであるトイレを、イギリス在住の著者が世界各国を取材しまとめたものが本書である。

日本のシャワートイレ(本書ではロボットトイレと呼ばれる)から、現在も普通に屋外で排せつをするインド、絶望的に改善できないアフリカのトイレ事情まで世界各国を取材している。

また、中国のあの悪名高い扉のない公衆トイレを実際に使用しながら、犯罪抑制など様々な事情から削減されているアメリカやイギリスの公衆トイレのほうが問題が多いという指摘は面白い。

本書の中でもっとも考えさせられるのが、アメリカの下水汚泥を「バイオソリッド」という名称で肥料として再利用としているのにかかわらず、そこに含まれる文明社会から生み出される数々の化学物質や除去しきれない細菌類が混入しているために引き起こされている農村地帯の汚染の実態である。

これからの下水処理を考えるにあたり、最終章にでてくるNASAの尿を飲み水に変えて使用している話が象徴的である。

環境問題を考えるとき、われわれの排泄物をどう扱っていけばいいのか。大きな問題提起を与えてくれた本である。

「同和と銀行」森功著 講談社2009/11/16 21:55

まだ記憶に新しい飛鳥会事件の被告である部落解放同盟幹部小西と、三和銀行の「汚れ役」をしていた岡野との長年にわたる付き合いを、主に岡野からの聞き取りからまとめ上げた記録である。

 あのバブルの真っ盛りのどこか狂乱していたこの国の姿が見えてくるが、こんな時代は今からみると実に滑稽でさえある。

 それにしても、同和という隠れ蓑を使って、この小西という人物は政財界の大物と渡り合いながら、多くの利権を手にしてきたものだと驚嘆させられる。
 周りの人物たちも、腫れ物に触るように扱ってきたのだから、これを近代国家と言えるのであろうか。

 著者は、銀行側も小西をうまく使ってきて、もっとも利益を得たのは銀行であるとしているが、いまや見る影のない三和銀行をみるとこの説には疑問である。

 ヤクザを仕切り、政財界の大物を牛耳り、銀行を手玉に取っていたこの小西の最後の姿を見ると、バブルの宴に酔ったこの国の今の姿と重ね合わされてしまう。

「金融大狂乱」ローレンス・マクドナルド著 徳間書店2009/11/23 16:25

本書は、無名の大学を卒業し、ポークチョップのセールスマンから零細な証券会社で証券マンに必要な資格を得て、メリルリンチの支社で実績を上げた後、IT企業「転換社債ドットコム」を立ち上げ、ITバブルはじける前にモルガン・スタンレーに買収され、そのごリーマン・ブラザースの本社採用となって、転換社債担当のバイス・プレジデントとして実績を上げていた著者からみた、今回の世界同時不況に至るレポートである。

まさに、当時は飛ぶ鳥を落とす勢いのあった投資銀行に在籍していたからこそ書ける現場感覚の書物に仕上がっており、どこか物語を読んでいるような感覚にさえなる。

また、著者のいた部署は、あのサブプライムローンを証券化して売りまくったモーゲージ業務とは全く異なる債券部門であり、早くから現場を歩いてサブプライムローンの危険性を察知していたことは、注目に値する。

それにしても、本書の序章に見られるような、あの大恐慌後につくられたグラス・スティーガル法を廃止したことからこの悲劇が始まったという著者の指摘は重い。

加えて、リーマンを破たんさせたニューヨーク連銀の判断ははたして、正しかったのであろうか。世界経済をここまで陥れた現在、再検討に値するテーマである。

「百年続く企業の条件」帝国データバンク 朝日新書2009/11/23 16:35

会社の寿命は30年といわれる。
 これは、一つの企業が事業をなして成功を収めたとしても、その後の市場環境の変化についていけなかったり、事業承継がうまくいかずに、廃業や閉鎖はたまた倒産に追い込まれる企業の特徴を示した言葉である。

ところが、本書では、30年どころか100年を超す企業を多数取材している。
 なんと、日本には業歴100年以上の企業が2万社もあるという。 このような国は、日本ぐらいであるというのも、長引く経済停滞の中で自信喪失気味のわれわれに自信を持たせてくれる。

本書はそれら老舗といわれる企業の、社訓から、財務状況、倒産に至った企業の取材、そして実際の事例までを網羅し、この厳しい時代に先行きを模索している多くの中小企業への一つの光明となっている。

おもしろいのは、本書の巻末にわが国の100年以上の業歴の企業が、歴史年表とともに掲示されていることである。読者にとって、身近な企業が数多く掲載されており、親しみがわいてくる。

これらの企業を眺めていくことにより、これからの日本の方向性への大きなヒントが得られるような気がする。

「イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか」 渡辺一夫著 築地書館2009/11/29 21:47

日本の野山に自生する代表的な樹木を、その特徴からどのような環境でどのように生存してきたか、それぞれの生き残り戦略という切り口で紹介している。

私も、森を歩いて木々を眺めるのは大好きである。
 本書に出てくる木々は、普段接することの多い木々であり、本書によってより身近なものになった。

森を歩くときに、または森から帰ってきたときに、本書をひもといてみると、奥深い植物の不思議と、植物の極相に至るまでの長い時間やハイマツやユキツバキやミヤマナラなど環境への適応までのとてつもない時間に思いをはせてしまう。

また、もともと荒れ地に盛んに植えられてきたニセアカシアの強い繁殖力に特定外来種として要注意リストにあげられている一方で養蜂業者は困惑しているとして、人間の勝手な振る舞いに皮肉を込めて解説しているのも興味深い。

それにしても、私の大好きなカツラは、長い長い歴史(約1億年)の中で衰退の道にあるとしているのはどこか悲しい。