「人は原子、世界は物理法則で動く」マーク・ブキャナン著 白楊社2010/08/21 08:49

経済学に代表される社会科学は、ニュートンにはじまる自然科学があまりに精緻で美しくできていたためにこれを人間社会にも取り入れて発展してきたものであるとされている。
 しかし今、その社会科学の行き詰まりはいたるところに現れている。
 そもそも、その前提条件としている人間は決して間違いを犯すことなく、利己的な目標を追求し続けるというもので、現実の人間や社会を現したものではない。ここに、経済学の大きな誤りがある。

本書は、全く異なる視点から、その人間の行動を分析している。

マンデルブロによれば、株をはじめとする価格変動のある市場の価格分布に見られるのは、統計学のベル型カーブではなく、より幅の広いべき乗の分布であるという。ここに、統計学の予測を超えた価格変動が見られ、あのノーベル賞学者を擁したLTCMでさえ予測できなかったような事態が発生するのである。

さらに、一国の中で、富める者の割合も「べき乗」であるという。すなわち、どんなに平等な社会を作ろうとしても、金の流れを考えたとき、ある一定の割合で金持ちは発生するというパレートの実証を紹介している。ここで現れる数式は、マンデルブロの「べき乗」である。
 この事実を説明するのに著者は、ミシシッピ川をたとえにあげ、一つの川に流れる水量と川の数が比例しその算式も、「べき乗」である。
 この「べき乗」は、不思議なことに至る所に現れる。
 すなわち、人間の行動は、大きな流れでみると自然法則の中に収まるというのが本書の主張である。

複雑そうに見える人間社会も、実のところパターンで解析できるという本書の主張はユニークであり、当を得ている気がする。
 これからの社会科学のあり方を根本から変える可能性がある本である。