「民の見えざる手」 大前研一著 小学館2010/09/05 21:51

すでに、旧来の経済学は、今の世界経済の現状も説明できないし、処方せんも提示できない。
 これに対し著者は「心理経済学」を主張し、この国を覆っている将来への閉塞間に対し独自の提言を行っている。

過去に何度も行われてきた経済対策はほとんど無駄金として消えてしまった。
 いまや、所得税や法人税は最高水準に達し、これ以上の負担を国民に求めるべきではない。
 金をかけずに税収を上げる方法があるとして、4つの方策を提示する。 このような規制緩和論は、今や少数派となってしまった感があるものの、税収増による財政再建という道筋が相当困難になっている現在、著者の提言は検討に値する。

さらに、定年後の夢も20以上持てとする。いつまでも夢を忘れずにという大前の提言は、今まさにこの国に必要とされていることなのかもしれない。

まだまだ元気な大前氏、という印象である。

「日銀デフレ大不況」 若田部昌澄著 講談社2010/09/05 22:20

円高が止まらない。
 これによるデフレ傾向にも拍車がかかっている。
 政府日銀は、対策らしきものを打ってはいるが、ほとんど効果らしきものは見られない。

本書は、この20年近く続く日本経済の低迷の主犯を日銀であるとし、大胆な金融緩和政策こそがデフレを脱却する近道だと主張する。

こうなった源流は、そもそも80年代終わりの、日銀法改正にあるという。それまでは、政府のコントロール化にあったものが、日銀法改正により、独立色の強い機関となり、伝統的なインフレ嫌いが体質的にあるため、円高デフレ容認政策となっているとする。

今の日本のデフレは、世界経済の構造的な変化の要因が強く、必ずしも金融政策のみにきするものではないと思うが、わずかな回復基調ですぐに引き締めに転じてきた姿を見ると、著者の主張にも一理あるような気がする。

著者が皮肉を込めて、ここ20年の日本のインフレ率は、平均すれば0~5%に収まっており、日銀の実務担当能力は優秀だとし、日本再建のためにもインフレターゲットの導入を主張するが、その実現性には疑問を感じざるを得ない。

果たして、日銀は変われるのであろうか。

「男おひとりさま術」 中澤まゆみ著 法研2010/09/09 22:17

上野千鶴子の本を連想する表題だが、本書の内容は、あくまで実践的なものである。
 主として定年後の退職金、再就職、健康保険から年金まで、実に具体的にかつ問い合わせ先まで実に、きめ細かく親切な作りになっている。
 実際に、どのようなニーズがあるのかを調査した上で、本書をまとめたというので、納得できる。

最新の情報がたくさん詰まっており、単身の男性だけではなく、退職を控えた男性一般の人たちにも、大いに参考になる。

それにしても、このような本が出てくるというのは、残念ながらこの国の単身社会が一段と進んでいることの証左であることの裏返しであることは疑いようがない。

「新興衰退国ニッポン」金子勝、児玉龍彦著 講談社2010/09/11 17:50

今度の金子氏による本は、至る所にみられるこの国のほころびを、九つの視点から取り上げている。
 医療、貧困、非正規雇用、介護、公共事業、産業、金融、グーグルやアマゾンの支配、技術開発という9つのテーマをめぐり、この国の至る所にみられる衰退のきしみの現象を鋭く指摘する。

本書のエッセンスは、序章に込められている。
 著者が言うように、20世紀的な統計理論ではなく、統計学ではつかみきれない特異で極端な事態が頻発する事態こそ現実であり、ここに著者のメッセージが込められている。
 やはり「科学」万能主義の終わりは疑いようがない。

「日本は衰退過程に入っている。このことを自己認識しなければ、この社会はいずれ滅びる。」との指摘は重い。

「ロストシティZ」デイヴィッド・グラン著 NHK出版2010/09/12 20:53

わくわくする本である。
 1925年に、アマゾンの奥地でZと呼ばれる古代都市をたずねて姿を消した探検家フォーセットを辿る記録である。

どうやらこのフォーセットという人物は、多くの人をとりこにするらしい。
 あの、コナンドイルの「失われた世界」も彼がモデルだという。
 そして著者もその一人になる。

著者がフォーセットの足跡を辿るシーンと、フォ-セットの最後に残した記録がまるで映画のように交錯し、一体フォーセットの手掛かりはどうなったのか、ロストシティは、存在したのか。と一気に読み進んでしまう。
 そして、よくできた結末が待っている。

秘境を求める人間の性質はすばらしい。
 だからこそ、人類が発展してきたのだと理解できる。

「デフレの正体」 藻谷浩介著 角川書店2010/09/15 21:49

ある意味ユニークな本であるが、おそらく真実を突いている。

著者の主張は、バブルも、失われた10年も、その後の長いデフレもすべては、人口統計から明らかになるというものである。
 すなわち、戦後の高度成長を支えたのはベビーブーマー世代がいたからであり、バブルは彼らが一斉に住宅取得に動いたためであり、失われた10年やデフレ現象は高齢化社会が進展し高齢者が将来不安のために貯蓄に励んでいるために需要不足から生じているという。
 そしてこれらの説明は、すべて統計資料からも明確に裏付けされる。

これだけで、旧来の経済理論では説明のつかなかったことが、簡単に説明できてしまう。
 疲弊する地方という表現も、成長する都市という表現も、すべて崩れ去ってしまう。
 超円高も、デフレも、消費低迷も、すべてはこの高齢化社会に突き進むこの国の現状から説明できる。
 近未来にあるのは、貯蓄ばかり積み上がり誰も消費をしなくなった超高齢化社会である。
 これだけの事実を突きつけられると、最後に提示している著者の私案も、すでに手遅れではないかと思えるくらいほとんどかすんでしまう。

この本を読んでから、世界観が変わった。
 日本経済を巡る様々な議論を、この切り口から見れば、霧が晴れるような感覚を覚える。
 それぐらいの衝撃的な本といってもいい。

加えて、従来の経済学者が、頭で考えてきたものを現実からことごとく否定する姿は、心地よい。
 そう、経済学は現実を説明できないのである。

IS02とWillcom032010/09/17 07:34

残念ながら、愛機の03では、私の単身赴任先の新潟県では電波が届かない地域が多い。
実は、先日山間の学校に出かけていた際、妻の父が危篤状態になった。
妻からメールや電話が入っていたのだが、まったく連絡がつかず、わかったのは結局夜中になって街中に戻ってからであった。

これではいけないと思い、私以外の家族が使用しているauの機種から、何か手ごろな機種はないかと探してみたところ、世の中はスマートフォンブームになりつつあり、ちょうどWindows PhoneとしてIS02が出ていることを知った。

ちょうどいいことに、9月中の契約であれば、事実上2年間は基本料無料で使用できる。さらに、50歳以上の新規契約には割引もある。という宣伝文句に誘われて、衝動買いした。

標準のブラウザはIEであるが、タブブラウザではないのですぐにオペラを入れてみた。03に比べて反応がよく、拡大縮小も小気味よく03からの進化を感じた。

一方で使いずらいところも多い。
まずタッチパネル。Iphoneと同じ静電方式というらしいが、これがWindowsには合わない。
大きなアイコンをタッチするにはちょうどいいが、私が常用しているExelでは、罫線の幅を動かすのさえ一苦労。
また操作中に、右下にある電話マークを触ってしまって、何度も電話をかける画面に切り替わってしまい、実際に電話をかけてしまったこともあった。
キーボ-ドも、見易くタッチ感覚もいいものの03とは異なる配列で、特にEnterキーが小さいこと、半/全角キーがないこと、中点「・」のキーがないことなど細かいところがどうしても気になって、入力する気がなくなってしまう。

決定的なのは、事前にわかってはいたがEzwebが使えずパソコンメールを受信しない設定している妻とのメールのやりとりができないことである。
もちろんCメール受信はできるので、やはり03をメインマシンとして使い、IS02はあくまで受信専用機として2年間塩付けにしようかと思う。

くわえて、私はパソコンのモデムとしても03を使用しているが、月間使用料は4000円あまり。これをIS02でやろうとすると13000円と、なんと3倍にもなってしまう。

というわけで、これからもWillcomが離せない。

「スラムの惑星」マイク・デイヴィス著 明石書店2010/09/19 14:38

日本では、少子化が問題とされ、すでに人口減少社会に入りつつあり、重要な政策課題になっている。
 一方で世界に目を転じると、人口爆発と都市への集中が激しさを増し、貧困層が激増し、スラムがいたるところに出現し、拡大している。 本書は、その世界各地に広がるスラムの現状をつぶさに明らかにする。
 ただ、著者の視点はジェフリーサックスのような楽観主義には彩られていない。
 著者が示すのは、いくつもの悲惨な事例だけである。

貧困撲滅のための国連の取り組みも皮肉たっぷりに書いているし、あのグラミン銀行の取り組みでさえ、搾取される貧困層にとってはほとんど役に立たないと断言する。
 残念ながら、これが現実である。

なお、本書の前半に世界のメガシティの一つとして東京も出てくるが、他の都市には見られない際立った特徴がある。
 すなわち、スラムがないことである。
 この事実こそが、世界からスラムをなくすための一つのヒントになりそうな気がするし、日本が世界に貢献できることの一つであると確信した。

「だれかを犠牲にする経済は、もういらない」原丈人・金児昭著 ウェッジ2010/09/19 17:31

対照的な経歴を持つ原氏と金児氏の対談集であるが、ともに経済の第一線で活躍してきただけのことはある読み物となっている。

原氏は、学生時代から反骨精神と企業家精神が旺盛で、アメリカでの光ケーブルを使った事業を立ち上げたり、多くの先端的企業の投資に携わったりしていたが、いまやバングラデシュで先端技術を使いながらその利益を地域に還元する取組を実践している。
 一方、金児氏は押しも押されぬ超優良企業である信越化学が借入金にも事欠くようなまだまだ零細企業時代に入社しながら、叩き上げて経理・財務の分野では第一人者となった人物である。

それぞれ、体験的な言葉が散りばめられ、感銘する。
 「CSRは、稼いだ企業による節税対策やイメージアップ戦略である。」、「マイクロファイナンスも多くは株主利益最大化のためのツールになっている。」、などは原氏からみたアメリカ企業への体験的な批判であるし、
「一円の利益を上げることが、いかに大切か。」、「利益を上げることは『人』のためである。」、「できすぎる人のまねはしない。」「自分はたいしたものだとは思わない。」「表面上上司にはぺこぺこする。」などは、サラリーマンから頂点に上りつめた金児氏らしい人生哲学である。
また、いまや日本の企業にとって喫緊の課題であるIFRS(国際会計基準)や時価会計、減損会計、内部統制、などは、企業性悪説と株主の短期的利益追求のための道具であるとしている点など、この分野に長くいたからこそ言える言葉である。

さらに最終章で原氏は、日本のように中長期的視点で研究開発していくこと、従業員や取引先と長期的な関係作りをしていくこと、従業員の健康まで面倒を見るような、人々が幸せになるような資本主義を構築したいとしている。

ある意味で、アメリカ一辺倒できた日本を見直すきっかけになりうる本である。

「日本の税をどう見直すか」 土居丈朗編著 日本経済新聞出版社2010/09/26 09:44

長期にわたる景気低迷と高齢化の進展にともなう財政支出の増加を前に、財政支出に占める税収の割合は、ついに50%を切ってしまった。
 政府は本格的な税制改革は、まずは無駄遣いの削減をしてからというが、事業仕分けを見ればわかるようにその成果は一向に上がる気配はない。それどころか、この支出削減の弊害がいたるところに現れている。

本書は、この停滞したように見える税制改革の議論への専門家による豊富な提言集である。
 諸外国の事例や、世界の税制改革の動きが手にとるようにわかり、議論のためのたたき台として優れた書籍に仕上がっている。

本書の提言は、給付付き税額控除の導入、消費税の引き上げ、法人税の引き下げと租税特別措置の廃止、住民税の均等割の引き上げと土地にかかる固定資産税の引き上げなどいずれも、声を上げるだけで大きな国民的議論がまき起こりそうなテーマではある。
 とはいえ、税制自体は簡素なものとし、それによって不利益をこうむる低所得者などに対しては、給付によって対応せよという主張は、至極まっとうな議論と思われる。

残念ながら、この国では政府からは大きなサービスを求める一方で、負担増に対しては拒否反応を示す傾向が強い。
 これが、結果として積み上がる債務となって将来世代に重くのしかかっている。
 受益と応分の負担を公平な形で分かち合う仕組みづくりのために、本書の提言は必須である。