「ルポ 生活保護」本田良一著 中公新書2010/10/27 21:53

生活保護というと、不正受給の問題や、受給者をねらった医療機関の不正診療や劣悪な入居施設の問題、さらには行政側の支給者への厳しすぎる対応、そして財政への悪影響等々マイナスの印象を持つことが多い。

本書は、この生活保護のむしろプラス面をとらえ、市民の20人に一人が生活保護受給者となっている釧路市の取組を中心に紹介した書籍である。

生活保護には最後のセーフティネットとしての役割のほか、皮肉にも第4の産業としてその経済効果もあるとしている。 一方で、最低賃金の方が生活保護の基準よりも低かったり、老齢基礎年金が生活保護費よりも低かったりと、制度の矛盾点も指摘している。

また釧路市は、自立支援プログラムとしてボランティアからはじめて就労へと促す取組や、塾に通えない生活保護受給者の子どもたちへ無償の勉強会を開催しているNPOの取組等々紹介している。

本書を通じて、知ったことは大きく二つ。生活保護率(1000人あたりの受給者の割合)は、大阪市では44.4、浜松市では4.8など全国的にばらつきが大きく運用上の違いが浮き彫りになっている点。 そして、平均受給期間は長期化しているとはいえ、(10年以上が25%)それなりに6ヶ月未満の割合(6%)もあり、行政側の努力も見られる点である。

いずれにせよ、すべてのセーフティネットの役割を生活保護に負わせるのは、限界がある。本書で提言されている給付付き税額控除(納税者番号制の制定が前提となる)の導入など、様々な政策のパッケージによる制度改善を期待したい。