「地震と社会(上)」外岡秀俊著 みすず書房2011/05/04 17:04

阪神大震災をきっかけとして災害から見える問題点を浮き彫りにした本。様々な観点から分析しており、秀逸である。

今ではあまり聞かれなくなった地震予知。 関東大震災級の地震には耐えられるとしていた安全神話がもろくも崩れ去った震災。 初動対応がまったくできなかった行政。 災害初期にいち早く現地向けに災害情報を発信し続けたラジオに対して、ほとんど役に立たなかったテレビや新聞。 神戸を愛した谷崎の物語や明治初期には一寒村に過ぎなかった神戸を改造し発展させた原口や戦後の復興を成し遂げた宮崎市政など神戸という街の成り立ちまでよく見えてくる。

最後に記された、「犠牲者を最小限に食い止めたのは行政機関ではなくコミュニティであった。」との言葉は印象的である。

「地震と社会(下)」外岡英俊著 みすず書房2011/05/04 17:09

本書を著した著者の意図は、明確である。 すなわち、災害を情緒的に捉えるのではなく、そこにある様々な問題点を浮彫りにし、今後につなげようという意思である。

およそその試みは成功している。 それは、著者の記者として鍛えあげられた取材力と、古今東西の数々の優れた文献を調べあげて、今後の大災害に立ち向かうための数々の提案力に圧倒される。

そして、本書で紹介される寺田寅彦の言葉にそれは集約されている。 「文明が進めば進むほど天然の災害がその激烈の度合いを増す」ということに尽きる。

ただ、阪神大震災を機に記されて指摘された多くの問題点は、残念ながら今回の大災害でも教訓として生かされたとは言い難い。 今一度、この記録をひもといてみると、今回の大震災への政府の対応の問題点がよく見えてくる。