「自由市場の終焉」イアン・ブレマー著 日本経済新聞出版社2011/07/27 07:13

2008年金融危機後の財政支出の急拡大に苦しむ日米欧に比べて、「国家資本主義」と呼ばれる新興国の力強さが目立っている。

本書では、これら国家資本主義を採用する国々の由来とそれぞれの実情を深く分析している。
その上で、これらの国々なかでも特に中国の課題を掘り下げている。

興味深い指摘がいくつもある。
1970年代。台頭する多国籍企業のイメージは、国家を超えて活動する企業であったが、今や株主利益ではなく政府の意向を最も大事にする新興国の企業が急速に勢力を増している。
これら企業の経営トップは国家指導層が握っている。 そして彼らは長期的な生産性や財務の安定性につながる妥当な判断をするための教育や訓練を受けていない。
国家資本主義国は、政治的な影響力と政府の収益を最大化することにその原点があり、国内の問題への対処に忙殺されているため、世界の覇権を目指すという無謀な企てに費やす時間も金も人もない。
すなわち、かつての共産主義国家とはまったく異質な存在であるという。

本書の分析の通り、今日米欧それぞれが債務問題に苦しんでいる一方で、国家資本主義国のように政府の関与度合いが強い国の経済力が強さを増しているように見える。
 著者は、これらの国々も自由貿易の恩恵をこうむっている以上、いずれ変質が迫られると見ているが、やや楽観的すぎるように思える。

 むしろ、日米欧の方が、債務問題をきっかけに行き詰まりを呈していくような気がしてならない。