「利他的な遺伝子」柳沢嘉一郎著 筑摩書房 ― 2011/08/05 09:18
本書は、主に脳科学の最新の研究成果を踏まえ、現代の人間社会について著者の考察をまとめたものである。とりわけ、表題にもある「利他性」についての項目が興味深い。
教えられることがいろいろある。
・一見人見知りをする人は社会への適応が弱いように見えるが、むしろ扁桃体の働きがよく、社会への適応ができるタイプである。
・脳の神経細胞の数は年齢とともに減ると言われているがシナプスの数は頭を使っている限り減らない。
・セロトニンが少ないと不安になったり攻撃的になる。セロトニンの分泌を上げるには、体をリズミカルに動かすこと、またはガムをかむことである。
・ヒトの培養神経細胞にエストロジェン(女性ホルモン)とテストステロン(男性ホルモン)をそれぞれ与えると、相手細胞とシナプスをつくる場所が異なる。これが、男女の脳の違いを生み出している。
・母親の脳に胎児の細胞が入り込み、母親の神経細胞と同じように分裂増殖している。さらに損傷を受けた場合は胎児の幹細胞が修復する。
・人には暴力遺伝子というヒトの暴力に関係する遺伝子があるが、乳幼児期に母親が家庭で温かく包んで育てればその遺伝子は発現しない。または、「何があってもその人のところに行けばやさしく保護してくれる」ヒトの存在が、子供の健全な心身の発育に必要。
・感情は理性とは対等で、時に理性より大切なこともある。
・脳を鍛えるには、人とコミュニケーションをとることである。
それとともに大切なのは利他性である。
以前読んだ本に、経済学を学んだ学生は他の学生よりも利己的な行動をとる傾向にあるという。
本書でも触れられているが、ウォール街ではひたすら自分の利益だけを追及すれば経済は望ましい姿になるという考えが通用しているが、本来人は利他的な存在である。
もちろん、遺伝的な要素や環境的な要素もあるが、有限な地球資源を前に持続可能な社会としていくためにも、本来人に備わっているの利他の本能を顕在化させたいという著者の考えを全面的に支持したい。
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