「渋沢栄一」島田昌和著 岩波新書2011/10/04 03:32

渋沢栄一の伝記は数多い。
その生い立ちから、一橋家に仕えた後維新政府に取り立てられ、その後下野し第一国立銀行の創設にかかわるあたりまでが共通している。

一方本書は、現代でも超一流企業といえる数多くの会社の設立にかかわり、また民間の立場から政策提言を積極的に行い、そして数多くの学校創設にも関与して、儒教に根差した思想をベースに協調的な労使関係までも模索した渋沢を描いている。
それが本書の副題にも表れている。

時代的背景があったにせよ、一個人のなした業績としてはあまりに多様で多彩であることにあらためて驚かされる。

彼がいなければ、今の日本の産業は今のような形で繁栄できなかったかもしれないとさえ感じる。

「未曾有と想定外」畑村洋太郎著 講談社現代新書2011/10/04 03:44

失敗学を立ち上げ、六本木ヒルズの回転ドア事故やJR西日本の脱線事故など大きな事故の度に、高い知見を我々に示してくれる著者が、今回の大震災と原発事故について述べたもの。
著者は、原発事故の調査委員会の委員長を任命されており、事故原因の徹底究明はこれからであるが、著者の考えがしっかり伝わってくる。

その考えは、この表題に込められている。
今回の大津波については多くの識者のコメントに「未曾有の」という枕言葉がついているが、
歴史上繰り返し日本を襲ってきた津波にこの言葉を使うのは適切ではない、問題は災害の間隔が長すぎるために人々の記憶からなくなっていってしまう現象であり、決して今回が初めての自然現象ではないとし、これを戒めるために使っている。

一方「想定外」については、
原発事故に対して東電や原子力村と呼ばれる関係者たちが使うことばであるが、これをイソップの寓話にたとえて批判している。すなわち、自分の力の及ぶ範囲しか想定しないという考え方である。
著者がよく述べる話に一つの技術が安全といえるようになるためには200年かかるという。したがって、それまでの間は安全レベルを最も高いものにする必要があるが、少なくとも原発に関してはとくに周辺機器に対して弱かったと指摘している。

また、最終章で述べている今後日本を襲う大災害への可能性と災害への備えの意識や安全対策への考え方は、この国へ大きな警鐘を鳴らしている。

このような人物が、原発事故調査委員会のトップに就任したことは心強い。

そして、災害への備えとともに、事故を未然に防ぐ考え方もこの国の政策へ大きな一歩となるにちがいない。