「国際通貨システムの体制転換」山下英次著 東洋経済新報社2011/10/15 05:13

超円高が続いている。1ドル70円台後半の状態が続き、企業は悲鳴をあげているが、政策的にも手詰まりの状態で、政府はただ手をこまねいているだけのように見える。

本書はその副題にあるように、普段我々が当然の制度のように考えている変動相場制への批判の書である。

すなわち、国際通貨体制の時代を概観すると、現代の変動相場制を採用してから、数多くの経済危機が発生し、世界経済のパフォーマンスも悪くなり、経常黒字国は急激な通貨高のためにデフレと雇用の海外流出を通じて低成長を強いられている。
一方で基軸通貨国であるアメリカは、安心して成長戦略を取ることができる。

そもそも、フロート制への移行はブレトンウッズ体制の崩壊に伴ってやむなく起こったもので世界で議論を重ねた上にできたものではない。
また、金融制度そのものが債権者のロジックでつくられるべきであるのに、いまや世界最大の債務国が主導権を握っている。
そして、フロート制は為替レートの調整機能を持っていない。かつ、通貨の価値尺度機能をまったく無視している。

通貨が急上昇した国すなわち日本は、デフレ効果が継続的に発生し、財政支出の拡大の効果を減殺する。そして、企業はコスト削減に努力し黒字は減らない。一方で、米国は所得の移転効果から失業率が減少し日本は失われた20年といわれる低成長にあえいでいる。

また、フロート制は世界全体のインフレ率を拡大させるのみならず各国間のインフレ率格差を拡大させる。
金融派生商品もフロート制への移行に伴って出てきたものであり、時価会計原則も同様である。
などなど
歯切れのいい議論に、肯けることばかりである。
「失われた20年」の原因はすべてここにあったのだと認識を新たにした。

現在の変動相場制は様々なきしみが噴出しているように思える。
簡単ではないかもしれないが、著者の提案するCKCS(複数基軸通貨ベースの固定為替相場制)とアジア経済通貨同盟への動きはぜひ具体化させたいと思う。