「復興するハイチ」ポール・ファーマー著 みすず書房 ― 2014/06/15 20:22
表題のとおり、2010年の大地震で被災したハイチの復興のために奮闘する一人の医師の記録である。
それにしても、このハイチという国の歴史は悲惨としか言いようがない。
物語は15世紀に始まる。ヨーロッパの最初の新世界居留地となったこの島には、数十万いた原住民が、コロンブス到着から100年後にはほとんど滅ぼされてしまった。
その後、ハイチへの奴隷貿易を促進したのはフランス人で、1540年までにおよそ3万人の奴隷を連れて行った。奴隷への仕打ちは過酷なもので、しばしば反乱が起きた。
フランス革命の後、1791年の大蜂起は革命に発展、ナポレオンの4万人以上の軍隊を撃退し、1804年に主権国家を宣言。奴隷反乱から生まれた初めての主権国家となった。
しかし、1825年フランスは、莫大な補償金を要求。何と、その中には奴隷の損失代も含まれていたという。これを、ハイチは1950年代まで支払っていたという。
そして、1915年アメリカによるハイチ占領。その後アメリカに訓練された軍隊とその一族が1957年まで権力を握る。
その後も、デュバリエという医者が君主となったが巨額の横領が明るみになり国外追放、政治的な空白の後、アリスティド神父が1990年67%の票を得て、選出される。
しかしまたしても軍の蜂起が困難の時期を迎えたが、難民危機を経て、再びアリスティドが政権に返り咲く。
この時フランス政府に利子と合わせて210億ドルの返還を要求する。
ところが、アメリカとフランスが関与したとされるクーデーターによりアリスティドはなぜか中央アフリカに疎開させられる。
そして、2006年ハイチの有権者によって選ばれたルネ・プレヴァル、それに続くミシェル・ピエール=ルイ時代に多くの困難が押し寄せる。
それが、燃料不足に伴う森林破壊、ハリケーン、そしてあの大地震である。
著者は、震災前からハイチでの医療支援のために、エイズ、結核、マラリア対策などに取り組んでいた。その時点ですでに、人道支援やNGOの失敗を目の当たりにする。そこへ、大地震が襲う。
本書は、その震災直後のハイチでの著者の奮闘の記録である。
そして、復興における著者の描く未来のシナリオに期待したい。ここには、楽観シナリオと悲観シナリオが併記されているものの、著者のような地に足のついた支援が実を結びつつあることを感じる。
今のこの世界に、ファーマーのような志の高い人がいることに敬服と安心感を覚える。
そして私自身(多分日本のほとんどの人も)、ハイチのような国の歴史への知識をほとんど持ち合わせていなかったことに反省するとともに、これら貧困国にも関心を持ち続けなければならないとも感じた。
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