「ミンツバーグマネージャー論」ヘンリー・ミンツバーグ著 日経BP社2015/01/18 20:26

表題のとおり、ミンツバーグによるリーダーシップ論である。
本書では、多くのマネージャーへのインタビューを通じて、新たなマネージャー論ともいうべき本に仕上がっている。

本書の主張は、今までのリーダーシップ論は役に立たない。本当に必要なのは、コミュニティシップである。というものである。

参考になるところを以下に記す。
「私たちは、変化しているものしか目に入らない。しかし、ほとんどのものは昔と変わらないのである。」
「華やかなリーダーシップが話題になることが多いが、現実に行われているのは、地味なマネジメントであり、その基本的な性格は昔と変わっていない。」
「マネジメントの現場では、重要な仕事とありきたりの雑務が不規則に入り交じっている。そのため、マネージャーには、頻繁に、しかも素早く気持ちを切り替える事が求められる。」
「インターネットの影響により、マネージャーは、ますます仕事に追われるようになり、その結果マネジメントが表面的になり、現場と乖離し、状況に流され、機能不全に陥るケースが少なくない。」
「組織文化を築いたり改善したりするのは容易ではない。しかし、確立された文化を破壊するのは実に簡単だ。マネージャーが怠慢だと組織文化はあっけなく壊れてしまう。」
「マネージャーがリーダーシップを過剰に発揮すると、マネジメントの中身が空疎になり、目的や枠組みこうどうが乏しくなるおそれがある。・・・そして、ひたすらコントロールばかりしているマネージャーは、イエスマンばかりの空っぽな集団をコントロールする結果になる。」
「大組織では、目標の言い渡しによるマネジメントがますます幅をきかせているがそれは往々にしてシニアマネージャーの責任逃れでしかない。」
「鍵を握るのは、自信に裏打ちされた謙虚さを持つ人たちをマネージャーの地位につけることなのだろう。」

そして、最終章で、著者が考えるマネジメントに求められる枠組みが幾つか提示される。
最後に著者のこの言葉を書いておく。
「普遍的に有能なマネージャーなど存在しない。そして、どのような組織もマネジメントできるプロのマネージャーも存在しない。」

新たな、リーダーシップ論がここにある。

「反逆の神話」ジョセフ・ヒース、アンドルー・ポター著 NTT出版2015/01/18 20:34

一見読みやすいが、難解な書物である。現代の消費社会への警鐘のようにも見えるがそうではない。
ふくだいにあるカウンターカルチャーへの応援歌とも読めるがそうでもない。
しかし、現代の資本主義を支持しつつも、その弊害を取り除く方法を様々な角度で考察している。
いずれにせよ、経済学の豊富な知識を活用しながら、様々な考察ができる良書である。

関心を持ったところを幾つか紹介する。
「国が豊かになればなるほど、経済成長がもたらす平均的幸福度の改善が小さくなっていく。」
「ヴェブレンによれば、消費主義の本質は囚人のジレンマだ。消費主義の勝者は誰もいない。」
「カウンターカルチャーも消費主義も、同根である。それは、主流主義の拒絶を目に見える形で表明するやり方だったが、同時に自分の優越性の再確認である。」
「カウンターカルチャーは、アメリカ中流階級の価値観の発展の一段階である。消費者の主観という20世紀のドラマの波乱含みの一挿話である。」
「広告は、人を無防備にする欲望すなわち競争的消費を引き起こす欲望である。広告主はさながら武器商人だ。」
「税制の簡単な変更が、広告の抑制に貢献することができる。」
「先進国と途上国の自由貿易へのカウンターカルチャーからの批判は、グローバル化が文化に与える影響を懸念するあまり、先進国と途上国との貿易に反対するという悲惨な政治的誤りを犯した。」
「エヴェレストに代表される未知の国を求めて出かけているカウンターカルチャーの反逆者たちはマスツーリズムの突撃部隊としてきのうしてきた。」
「ディープエコロジーと呼ばれる環境活動家の主張は、エコを装った大衆社会批判である。」
「僕らが自問すべきは、・・・無秩序の過剰の方が、秩序の過剰よりもはるかに深刻な脅威だと認めることである。」
「多元的社会のもたらした重要な結果のひとつが市場経済の必然性である。」

どうだろう。
大衆社会批判と消費主義批判をしているカウンターカルチャーへの批判は、本質を突いている。
消費社会とは、むしろヴェブレンのいう競争的消費の産物だ。

ユニークな視点で、現代の消費社会について考えさせてくれる。

「日本ー喪失と再起の物語」デイヴィッド・ピリング著 早川書房2015/01/18 20:41

フィナンシャルタイムズのアジア編集長である著者が、書いた日本論。
驚くほどの取材力で日本という国の現在の姿を描き出している。

いくつも興味深いところがある。
〜日本が、生活水準の大幅な低下を経験せずに済んでいるのは膨大な累積赤字のおかげである。日本政府は、ある時点でなんらかの形でツケを払わずに済ませようとするはずだ。あからさまなデフォルトか、年金や医療などの社会保障コストを削減するか、インフレを起こして、実質的な借金の額を徐々に下げていくかのいずれかだろう。
〜戦後の経済成長モデルに集団主義や共同体的な価値観に特徴があるとする「日本的な」部分は皆無である。20世紀初頭の日本は過酷な競争を特徴とする資本主義であったし、成長が鈍化して社会の高齢化が進むに従い、かつて日本的経営の調子としてもてはやされた制度は次々と崩壊していった。非正規雇用実態から見れば今や、日本の労働市場は多くの欧米諸国より柔軟性が高いとされる。
〜日本の文化が中国とは全く異なると主張するのは、一種の防衛本能に過ぎない。日本はいうまでもなく、中国に深い影響を受けてきた。まさにそれだからこそ、両国の違いを強調することで独自の立場を確立しようとした。
〜日本が中国とロシアに勝ち朝鮮を併合したことはかえってこの国を悲劇的な方向に導くことになった。
〜バブル崩壊後の日本は、思ったほど悲惨ではない。インフレ率と、一人当たりGDP成長率でみると米英に匹敵する成長率である。
〜キャノンの工場を見学したとき、そこで働く作業員たちは、動作を最小限にして効率を最大化する作業技術を身につけていた。時間と空間の無駄の排除があまりにも進んだ結果、スタッフは極めて狭い作業空間内で身を寄せ合って仕事をするようになっていた。工場フロアには無駄から解放された余分なスペースが広がりつつあった。しかし私はそれを見て、一体何のためにそこまでするのかと思わざるを得なかった。
〜戦後日本の奇跡的な経済成長を支えた組織構造がそのまま「原子力ムラ」の最悪の特徴として受け継がれてしまった。エリート官僚が計画を立て国家予算を囲い込んでお気に入りのプロジェクトにのみ注ぎ込み有権者と協議することは滅多にない。
〜2011年の悲劇がもたらした衝撃が、この国になんらかの変化をもたらすきっかけになるのではないか。日本は、長期にわたる停滞が必ず変革的行動によって破られるというパターンを繰り返してきた。
〜私が見るところ、中国がいまだに日本に対して敵意を持ち続ける理由の一つは、日本と中国は文化的な近親関係にある隣人同士だということがある。
〜アベノミクスという大胆な金融緩和を伴うリフレ政策は、2011年の大津波と自己主張を強める中国の台頭というダブルショックをきっかけとして生まれた。

日本を深く知ろうと地に足のついた多くの取材によって、実に深くて客観的な日本論になっている。
そして、著者の日本への愛情があるからこそ書ける深い理解と洞察力が感じられる素晴らしい書物である。

「ビッグデータの罠」岡嶋裕史著 新潮選書2015/01/25 06:15

表題の通り、今やあらゆるシーンで注目されているビッグデータの影の側面に着目して懸念を表明している書物であり、なかなか考えさせられる。

前半は、インターネットの仕組みを実にわかりやすく説明している。
このお陰で我々の生活シーンが便利で安全になったことも、幾つもの事例で示してくれる。
この中で、興味深く紹介されているのは、ヤフーの検索数に基づく選挙の当落予想の精度の高さである。

ところが、後半になると便利さの影で、その先に潜む危うさをいくつも提示する。
確かに、利便性の向上の一方で、必ず求められる個人の情報の開示に伴う危うさを感じる。
行政に対するプライバシーへは非常に敏感な我々も、いざスマホのアプリやSNSの世界になるといとも簡単に個人情報を渡してしまう事実。
実際に、2003年に起こった事件では、ネット上の人々がある個人を特定していくさまが書かれていて、膨大な無限に近い数のセンサーやプログラムが個人を監視する社会が出現したという著者の主張も実感できる。

また、ここのところ続いている食品への異物混入騒ぎはまさにこの流れであると感じる。
著者の懸念するとおり、便利さの向こう側にあるものを我々はよく認識しなければならない。

「大脱出」A・ディートン著 みすず書房2015/01/25 10:41

本書は、健康と経済の二つをテーマに格差が進む世界を時系列に描き、格差と貧困に立ち向かうための処方箋を描く大作である。
本書でユニークなのは、経済格差だけではなく、健康に関する格差もとりあげたところである。
その根拠となるのは今話題の幸福についての分析である。これを指標化するのはかなり困難な作業になるため、本書では平均余命と一人あたりGDPの相関をテーマとして健康と経済を切り口にしたものと思われる。

健康についての著者の分析は、簡潔に言えば、医療の進歩と栄養状態の改善が現代世界の先進国に長寿をもたらしたというものである。
ただ一方で、低所得国に見られる困難な問題を指摘している。
続いて、経済面の分析である。ここでは、あのピケティの所得格差の分析も紹介される。
著者が「国家の繁栄の源は、土地でもなければいつの日か枯渇するかもしれない天然資源でもなく、人材だ。」
とするところが印象的である。

本書では、格差解消のための貧困国への支援の手段について、特に力が入っている。
もちろん、先進国からの経済援助は行うべきだというのがスタンスではあるが、それだけではない選択肢も幾つか提示している。 著者は言う。
「グローバル化が貧しい人々の不利益ではなく利益となるような形で機能する国際的な政策を支持すること。まだ脱出できていない人々が大脱出を果たせるよう応援する最善の機会がそこにある。」

「格差と民主主義」ロバート・ライシュ著 東洋経済新報社2015/01/25 20:23

格差が拡大し、富裕層に有利な社会になりつつあると懸念する著者のアメリカ国民に向けた提言である。
しかし、そこに示される問題提起は日本にも十分通用する。

たとえば 「政府予算が削減され、、小さくなっていくパイの分け前を求めて平均的アメリカ人が互いに競争している。」
「プライベートエクイティのマネージャーたちはリスクをとるどころか事実上政府に肩代わりさせている。」
「私たちは、過去の大きな経済危機から極めて重要な教訓を得ていない。企業所有者や企業幹部が平均的労働者に比べて過度に大きな利益を得るという極端な不均衡に陥ると経済はひっくり返るというきょうくんだ。」
「経済は誰のためにあるのかという根源的な問題が浮かび上がる。・・・フルタイムの仕事を望んでいるのにパートタイムで働いている人々、請負労働者や派遣労働者など雇用の安全性がまるで確保されずに毎月の給与を使い切るような生活をしている人々のことも考慮に入れていない。」
「現代の共和党右派は、一世紀以上前に支配していた思想〜社会ダーウィン主義をそのまま流用して適者生存を説く。」
などなど

また、よく聞く議論への反論もなかなか鋭い。
嘘その1 「富裕層に対して減税すれば、皆に良い効果を波及させるトリクルダウンが発生する。」
嘘その2 「法人税を下げれば、企業は雇用を創出し景気も活性化する。」
嘘その3 「政府の規模を小さくすれば、雇用が拡大し景気も好転する。」
嘘その4 「規制が少ないほど経済は強くなる。」
嘘その5 「財政赤字を削減すれば景気は回復する。」
以上の議論は、そのまま日本にも当てはまる。

そして、今こそ民主主義が必要とされているとする著者の主張。
「ただプラカードを掲げるのではなく、自分と意見が異なる人々を議論に巻き込んで欲しい。ただし、議論だけでは十分でない。反対の立場の人々にも理解してもらえるように持論を表現することが重要だ。互いに共有できる道徳観念に訴えかけよう。」

行動するのはあなた自身だと呼びかける著者の声が、重い。