「宇沢弘文の経済学」宇沢弘文著 日本経済新聞社 ― 2015/05/03 06:38
「社会的共通資本」という考え方を提示し、日本の経済学者として世界に知られた著者の遺作。
アダム・スミス、ジョン・スチュアート・ミル、そしてヴェブレンまで著者の考え方に影響を与えた経済学者を紹介し、著名な「自動車の社会的費用」をはじめ、地球温暖化、学校教育、医療、金融制度そして、都市問題までを社会的共通資本の考え方で包含し、著者の主要な論考が理解できる。
「社会的共通資本は、官僚的な基準によって行われるものではない。それぞれ独立の機構によって管理される。」
「森林をはじめとして、…その社会的管理組織として歴史的に形成されてきたのがいわゆるコモンズの制度である。」
「経済学が問題とするのは資源配分の効率性だけであって所得分配の公正性という問題は、なんらかの価値判断に基づくものであり経済学の対象とはなり得ない。しかし、この効率性をのみ基準とすること自体一つの価値基準に基づいている。現実には、所得分配の不平等化に伴って多くの深刻な社会的な問題が起きているのにもかかわらず経済学の客観性をのみ追求しようとするのはもともと経済学者の志向してきた社会的な監視とは離れるものである。」
「このように、大きな経済的精神的損失を他の市民に与えながら自動車利用者が自ら負担する費用はそのごく一部分にすぎない。」
「ブラジル政府は、アマゾンの長老たちに特許料を支払う制度を新たに作った。ところが、アマゾンの長老たちはこぞってアメリカの製薬会社から特許料を受け取ることを拒んだ。自分の持っている知識が人間の幸福のために使われることほど嬉しいことはない。その喜びをお金に変えるというさもしいことはしたくないというヴェブレン的な理由からであった。」
「公共的輸送機関の整備によって、都市における生活の自動車依存度を大幅に低下させることが、エネルギー効率、社会的環境の安定化に必須の条件である。特にジェイコブズの「アメリカ大都市の生と死」の主張に対して耳を傾ける必要があろう。」
こうしてみると、早くから従来の経済学では対応が困難な分野について、望ましい社会のあり方について、継続して提言をし続けてきた偉大な経済学者であったことが改めてよくわかる。
先生の考えが、今後も継承されて行くことを期待したい。
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