「帳簿の世界史」ジェイコブ・ソール著 文藝春秋2015/06/06 10:29

世界史を会計という切り口からとらえたユニークな著作。
本書を通じて、会計という技術が、今日の豊かな社会を作ってきたという側面が見えてくる。
同時に、われわれが理解していた世界史に新たな物の見方を提示し、歴史への認識が多面的になる。

本書によれば、
中世イタリアに始まった複式簿記、それがオランダにわたり繁栄の基礎となり、一定期間を区切って損益を計算する期間損益計算の考えが生まれる。
さらに、フランスでは、財政に会計を取り入れ、ネッケルというルイ14世の財務大臣が国家財政を記録した会計報告を世間に公表し、これがあのフランス革命につながっていく。
また、アメリカでは鉄道が急発展し、これとともに粉飾決算も横行その反省として、公認会計士制度が生まれる。

本書では、意外な人物と会計との関わりも紹介される。
ダーウィンは会計の知識を持ち複式簿記の発想が「種の起源」の記述にも見られるという。
また、科学的管理法を編み出したテイラーも生産管理戦略を会計の観点から考えたものであるとする。

しかしながら、大恐慌、エンロン事件、そしてリーマンショックを経ても軽々をめぐる不正や問題点は後をたたない。
この点について著者はこういう。
「経済の破綻は単なる景気循環ではなく、世界の金融システムそのものに組み込まれているのではないか。金融システムが不透明なのは決して偶然ではなくそもそもそうなるようにできているのではないか。」
一方で、このようにも述べている。
「会計が文化の中に組み込まれていた社会は繁栄する。」

「フューチャー・オブ・マインド」ミチオ・カク著 NHK出版2015/06/06 10:40

最先端の科学的業績をベースに、心をテーマとして、テレパシー、念力、記憶のデジタル保存、夢の撮影、人間並みに理解したり感じたりするロボット、脳自体のリバースエンジニアリングによる意識の転送、肉体を超越した脳、エネルギーそのものとしての脳、そしてエイリアンなどなどほとんどSFとも思える領域まで踏み込んだ科学書。
最先端の研究成果がいくつも紹介され、脳や心の領域については驚くほどの成果が出てきていることがよくわかる。

例えば、
・「細胞を活性化する光感受性のタンパク質をニューロンに導入し、そのタンパク質に光を当ててニューロンを活性化させ脳神経の経路を刺激して、行動のオンオフをするという成果がショウジョウバエやマウスで成功している。」
・「8×8の格子をなす電極をてんかん患者の脳につけ、心でタイピングができるようになっている。すでに、脳波タイプライターも実用化されている。…このテクノロジーの大部分はまだ未熟だが、テレパシーは次第に揺るぎない現実ものもとなりつつある。」
・人工神経装置を活用して、脊髄損傷の治療に使える可能性も示されている。「サルの腕と脳を損傷した脊髄を迂回して直接繋げることに成功した事例がノースウェスタン大学の研究である。100個の電極をサルの脳に直接載せ、コンピュータを経由して自分の腕につなげ、幾つもの筋肉を調整して動かせるようになった。」
・また、脳同士の直結の可能性として、
「アメリカとブラジルのラットの脳をインターネットでつなげ、アメリカのラットが赤い光を見るとその刺激がブラジルのラットに送られ、刺激を受けてレバーを押す反応を訓練されたラットに送るときちんと反応した。」

これらの、進んだ研究成果を示している一方で、幾つかの懸念も示している。
人工知能の章では、学習するAIがそれ自体知能を持った結果人間を攻撃するようになったSFを幾つか披露したり、人間の職業も奪われてしまいかねない問題をも指摘する。

本書を読み進めるうちに、夢のような可能性とともに、一人の人間をそっくりコピーできるような技術が空恐ろしくなってきた。
ただ幸いなことに、
脳のリバースエンジニアリングによって作られた脳は決定論的で予測可能なものになる一方で、量子力学やカオス理論から宇宙は予測可能ではなく自由意志が存在するという、自由意志と決定論の考え方を示しつつこう結論づける。
「私個人としては、アナログとデジタルの両方の計算を行うニューロンの振る舞いをトランジスタが忠実にモデル化することはできないと思う。…突き詰めれば、自由意志はきっと存在すると私は思う。…結局われわれはやはりおのれの運命の支配者と言えるのである。」

中小企業診断士 合格への道2015/06/13 20:35

・2012年の秋から学習を始め、2013年に一次3科目(財務・会計、経営情報システム、経営法務)合格。2014年に残りの一次科目(企業経営理論、経済学、運営管理、中小企業経営・政策)に合格。同年に二次筆記に合格しました。

・以下は、私のささやかな学習の記録です。

1 受験のきっかけ
・もともと中小企業診断士という資格は、私の学生時代、昭和53年に一度受験したことがあり、会社の知人も何人か資格を保有していましたので、よく知っている資格でした。
 ただ、会社に入ってからは様々な理由で受験勉強までする意欲と機会がないまま今に至りました。
 今回、この資格にチャレンジしようと思ったのは、実にふとしたきっかけでした。
 スマホを買い替えて、いろいろなサイトを見ていた時に、なぜか中小企業診断士の試験問題を見る機会があり、たしかマクロ経済学の計算問題だったと思いますが、これが解けなくて悔しい思いをして、書店に行ってテキストを立ち読みしているうちに、再チャレンジしようと決意しました。
 もちろん、今の仕事でも、中小企業支援や再生支援に関わっているので、実務に役立てようということと、そろそろリタイヤも見えてきているので、人生の次のステージへのステップにもなるだろうという思いもありました。

2 2013年
・2013年の一次試験の受験までは、とにかく独学で行こうと決意して、TACの「スピードテキスト」と「スピード問題集」のみで学習しました。
 単純に、図書館通いをして、テキストを読んで、該当箇所を問題集をこなすという繰り返しで、わからない単語はインターネットを活用しながら暗記するという作業を繰り返しました。
 試験前の1ヶ月間は、過去問題を実際の試験時間にならって、こなしました。
 
 ただ、この一次試験は私のような50代後半の人間には、なかなかつらい試験でした。
つまり、一度覚えたつもりでも、次に同じ問題をやってもすっかり忘れていることが多く、何回も繰り返すことと、暗記ではなく理解することで記憶に定着させなければならないので、理解できない単語や横文字には苦労させられました。

3 2013年の一次試験の結果
 そうして、迎えた平成25年度の一次試験の結果は、
企業経営理論 52点、経済学・経済政策44点、財務・会計70点、運営管理57点、経営法務69点、経営情報システム68点、中小企業経営・中書企業政策58点
 合計418点という結果で、あと2点に泣きました。

 この年は、とくに経済学の問題が難しく、全く歯が立たなかったというのが実感です。

4 2014年 一次試験
 科目合格が財務会計、経営法務、経営情報システムであり、残りの科目が企業経営理論、経済学、運営管理、中小企業経営・政策だったのが幸いして、経済学を除く科目はいずれも二次試験にもつながる科目だったので、結果として、非常に効率的な学習ができた1年となりました。

 この年は、上記科目をいずれもTACの通信講座を受講しました。
 また、経済学については、石川秀樹先生の「ミクロ経済学」、「マクロ経済学」を購入して、YouTubeのフリーラーニングを受講しました。
 
 これらは、動画による受講もできるので、繰り返し試聴することでより理解が深まりました。

 平成26年度の第一次試験の結果は、
企業経営理論58点、経済学・経済政策84点、運営管理67点、中小企業経営・政策79点

 この、中小企業診断士の一次試験は、年度によって科目の難易度が極端に変わり、この年は前年に難しかった経済学がずいぶん易しくなっていました。

5 2014年2次試験
 二次試験をわずか二ヶ月後に控え、過去問題を多少はやっていたものの、本格的な学習をしていなかったので、TACの二次直前通信講座、事例Ⅳのオプション講座と過去問題集を使って学習しました。
 ただ、この2次試験は、正答がないため、自分なりのスタイルを確立するのに苦労しました。

 結果として、一次知識は頭に入っていたので、事例Ⅰの組織、事例Ⅱのマーケティング、事例Ⅲの生産・技術の切り分けは、比較的すぐに理解出来ました。
 また、設問要求から解答の推測、与件文の理解、解答記入への一連の作業は、とにかく多くの事例をこなすことしかないと思い、ほぼ土日は本試験と同じ時間配分でこなしました。

 マス目を埋める作業は、普段キーボードでばかり書いていた私にとっては、そもそも悪筆でもあり、結構苦痛でした。
 最初は、下書きして、清書をしていましたが、これでは時間が足りないことに気が付き、マス目にはじめから記入をする方法に切り替えました。
 あまり消しゴムを使ってはいけないと教えられましたが、私は記入したそばから、何度でも消しゴムを使いました。
 何度も練習しているうちに、マス目にきっちり収められるようになりました。

 与件分を読んで理解するには、速読の技術も必要だと思いますが、これは私は昔から本を多読していて読み飛ばす習慣ができていたので、あまり苦になりませんでした。
 また、文章を書く作業も、同様にブログに書評を掲載することを趣味にしていたおかげもあって、それほど苦労なく書けるようになりました。

 とはいえ、直前の模擬試験の判定は、DBCBという散々なもので、これは来年再チャレンジかなと半分諦めながら、本試験に臨みました。


6 2014年二次試験
 ・事例Ⅰ やはりというか、設問要求は与件分を読んでも容易に見つからない構造になっていました。
 ここは、設問要求をみて仮説を立て、与件分から該当しそうなところを見つけつつ自分の考えで解答を記入しました。
 細かいところは省略しますが、設問3の組織管理上の課題は明らかに外した解答をしてしまいました。
 本題とは関係がありませんが、会場が女子大だったのでトイレの近い私は、ひと通り解答を記入したところで、10分ほど時間を余らして退出しました。

・事例Ⅱ これは、前年の形式を踏襲したもので、電卓も用意して落ち着いて対応出来ました。特に、PPMは一次知識の基本的なもので、助かりました。
 ただ、第二問は途中で書き直しましたが、後から考えると外した解答をしたような気がします。

・事例Ⅲ 私の一番苦手な生産・技術です。ただ、今回は、一次知識をそのまま使えるところが多く、第2問と第3問設問2は、苦労せずに回答出来ました。一方で、第3問設問1と第4問は、外したような気がします。

・事例Ⅳ 今回は、とにかく時間が足りないくらいの計算量がありました。
 また、例年と異なり、計算過程を書くスペースがたくさんあって、戸惑いました。結果的に、この計算過程を書くことによって、救われたのかもしれないと思います。
 第Ⅰ問は、例年通りの財務分析で財務諸表も単純化されているので、機会的にすぐに終わらせて、第2問に移りました。一見、何度も繰り返してやってきたNPV法の作業と思ってとりかかりましたが、少しひねってあって思いの外時間がかかりました。結果、設問1aは外しました。
 第3問はやはり何度もやってきたプロダクトミックスの問題でしたが、個別固定費がマイナスになるところが今までに接したことがなく、無視して通常通りの計算をしました。これは受験校によってけ見解が分かれていました。
 設問2に移った段階で時間の残りが15分程度になってしまったので一旦飛ばして、 第4問に移り、すぐに終えて第3問設問2を回答し、最初から見直しに入ったところで、終了となりました。

二次試験当日は、一応自分なりに全力を出し切った感覚でしたが、受験校の解答例を見ると、自分の回答とはかけ離れているものが多く、発表が近づくにつれてこれはダメかもしれない。来年に向けて、どのような学習をしていこうかと考えつつも、情報の少ない口述試験対策も調べながら発表を待ちました。
 そして、当日会社で中小企業診断協会の試験結果の発表のページを見ると、自分の番号があり、はじめは半分驚きに近い感情でだんだん嬉しさがこみ上げてきました。


7 口述試験
 これは、一番情報が少なかったので、各種ホームページをいろいろ調べまくりました。
結果、
・与件分を覚えておかないと、質問されても十分な答えができない。
・試験時間は10分。質問への回答は2分程度を要求される。
・ほとんどの受験者は、合格しているが、まれに落とされる人もいる。

ということから、各受験校から出されている想定問答集を集めて、声を出して答える練習をしました。
与件分を覚えるために、与件をテキストデータに変換して、スマホの読み上げアプリで再生して繰り返し聴きました。
声を出す練習では、一人カラオケを使いました。
また、TACの模擬面接も受けて、当日の雰囲気に慣れる練習もしました。

 当日は、試験時間に余裕を持って臨むために、指定時間の2時間前に会場に着きました。
 誘導員の方にはこちらから話しかけてみたりしました。
 結果、あまり緊張せずに質問にはスムーズに答えることができました。

当日の質問 
事例Ⅰ(A社)
・創業間もない企業にとって、大学などと連携して研究開発をすることについて、どう考えますか。
・A社のような、創業者が築き上げた企業の課題は何ですか。
 ◆ 事例Ⅲ(C社)
・C社のような、1社への依存度が高い企業のメリットは何ですか。
・C社が今後新製品を開発していくために、どのような取り組みが必要になりますか。



8 そして、1月6日。自分の番号をみて、ようやく実感が湧いてきました。
実務補習は非常にためになるようで、出会いもあり、関心はあるのですが、仕事柄実務従事でポイントはもらえそうなので、費用の節約からもこれで登録をしようと思っています。

試験までの2年間の学習の習慣が身についているので、逆に試験が終わってしまってだらけてもいけないと思い、実際の診断士としても活動にも役立つものはないかと書店で本を見ていたところ、簿記1級が目にとまりました。随分昔に、2級は持っていたし、出題を見ると、診断士の財務会計で見慣れたキャッシュフロー分析や、投資計算、プロダクトミックスなどもあり、6月に向けてチャレンジしようと思っています。

また、当面は、企業内診断士としての活動を通じて経験を積んで、定年後は独立を考えています。

「AIの衝撃」小林雅一著 講談社現代新書2015/06/14 15:01

ここのところ、再び注目されつつあるAIの最新動向と、その将来性や懸念について最新の研究成果を用いて分かりやすく解説した著作。

まずは、AIの暴走への懸念が提示されている。
その一つは、ホーキングやイーロンマスク、カーツワイルなどの著名な人物が、進化したAIがいずれは暴走し人類に壊滅的な被害をもたらすかもしれないと主張するものである。
そして、もう一つは、定型的な業務だけではなく非定型的な仕事や頭脳労働的なもいずれはロボットやAIに奪われてしまうというものである。
さらに、自動運転者を例に、高架橋を走行中に対抗運転車がはみ出してきたときなどの極限状態でどう判断するかなどの問題をどう取り扱うのかという問題を提示している。

続いて、AIの将来性である。
ここにきて急速に発展しつつあるAIの背景として、ベイズ理論の応用、柔軟な脳科学の成果をニューラルネットに応用し、相乗的に進化してきたこと(ディープラーニング)などが挙げられるという。
そして、驚いたことにすでにロボット用の基本ソフトがアメリカのベンチャー企業によって開発され、無償で提供されているという。 日本はロボット大国という幻想があったが、日本のロボットは人間が操作する単機能ロボットであるのに対し、世界の趨勢はAIを搭載して自律的に動く汎用ロボットという構図ができつつあるというのは衝撃である。

そして、著者はいう。
「おそらく、今から30年後に現在を振り返った時、まさに当時のパソコンやインターネットに匹敵する技術が、今のAIとロボット技術である。…AIと次世代ロボットは、あらゆる産業を根本的に塗り替えてしまう。」
その一つのイメージとして、インダストリー⒋0をあげる。
「製造ラインを流れる半製品が自分に足りない部品を製造装置に知らせ、装置がその部品を見つけてきて本製品に組み込む、…製品や部品と製造装置(AIマシン)とが互いに会話して仕事を成し遂げる考える工場である。…この種の次世代工場はインターネットで外部の部品メーカーともつながりAIが判断して発注する。配送するトラックは自動運転である。」

いまや、この分野は、とてつもない可能性を秘めている。
様々な課題を乗り越えて、この技術を人間の役に立つものにしていかなければならない。

「人類50万年の闘い マラリア全史」ソニア・シャー著 太田出版2015/06/27 20:40

本書は、表題のとおり人類とマラリアとの壮大な闘いを描いた大作である。
ほとんどの日本人にとってはあまり馴染みのないこの病を知るきっかけにもなる本である。

本書を通じて教えられてことがいくつもある。
すなわち、
現在、年間2億5000万人から5億人が蚊の媒介によってマラリアに感染し、100万人の死者が出ている。そして、予防法も治療法も知られているのに、この病気は、未だに人類を苦しめている。

その理由の一つが、マラリア原虫の薬剤耐性の獲得である。
南米のキナの木から取れるキニーネ。貴重なこの種子をオランダがインドネシアで栽培し莫大な利益を手にしていた。
神の薬とも呼ばれていたこの薬に、やがて耐性を持つ原虫が現れる。 インドネシアを日本軍が占領し、キニーネの入手が困難になると、ドイツの化学者がクロロキンという代用薬を開発する。
しかしこののクロロキンにも同じように耐性を持つ種が現れる。
そして、戦後の大量のDDTの散布。一時はマラリアの感染地域が大幅に縮小したが、これにも、やがて耐性を持つ種が現れた。
さらに、古代中国の医薬品から選別したアーテミシニンの開発と多くの偽薬の登場。国際基金は、ノバルティス社に働きかけこの薬の薬価を引き下げ、大量に準備をしたものの、発注したアフリカの国は少なかった。
いま、マラリア対策としてとられているのは、日本の会社が開発した殺虫剤処理した蚊帳であるという。

このように、マラリアのしぶとさには目を見張るものがある。
そして、樹木の伐採によって、サルだけに寄生するとか考えられていたマラリア原虫が人間にも感染しているのが発見されたり、合衆国でも感染者が発見されたりするなど、この病への懸念はくすぶり続けている。
そういう意味では、われわれ日本も、人ごとなどと言っていられないのかもしれない。

「世界を動かす技術思考」木村英紀著 ブルーバックス2015/06/27 20:45

本書はシステム思考の入門書ともいうべき本で、特に日本におけるシステム思考の弱さと、その重要性を説いた本である。

システムについては、具体的かつ分かりやすい説明がなされており、詳しくは本書を手にしてほしいが、本書を通じて強調されているのは、日本におけるシステム思考の弱さである。

例えば、標準化はシステム思考と表裏一体とされ、部品の規格は互いに整合していなければシステムにならないとされるが、日本の失敗例として、VTRの日本統一規格ができなかった例や、三次元CAD、ロボットなどを挙げている。

もちろん、プリウスのハイブリッドやコマツのKOMTRAXなどの成功例も紹介されているものの、最終章の日本の課題とする指摘は、耳が痛い。

そこでは、日本のロボット技術の敗北として、アメリカにおける手術ロボットを例に、日本の最も得意とする内視鏡が使われていながら、日本のシステム技術の弱さを示す典型的かつ深刻な事例として、憂慮している。
もうひとつが、電子タグ。日本が早期に技術開発をしながら、その標準化は、アメリカのEPCにさらわれてしまった。
さらに、スマトラ沖大地震の教訓がほとんど生かされなかった東日本大震災などの防災システムを指摘し、システム思考の重要性を説く。

あとがきでも触れられているが、ドイツではすでにインダストリー4.0が本格的に始まっている一方、日本の産業技術のシステム化の弱さばかりが目立っている。
いまこそ、われわれ日本人もシステム思考を学ぶべき時である。

「無理・無意味から職場を救うマネジメントの基礎理論」海老原嗣生著 プレジデント社2015/06/27 20:52

いわゆる中間管理職向けに書かれたマネジメント論。とはいえ、この手の著作にしては珍しく、具体例と理論が見事に噛み合って非常にわかりやすく、実践的な著作に仕上がっている。

例えば、
「仕事は楽しい、という状態をつくる。つまり、社員の内発的動機を高めると社員は自ら頑張るようになる。」
「与えた目標が簡単すぎたり、難しすぎた場合には、次の目標を再設定する。マネジメントの本質は、目標を随時変更して、ギリギリの線を保つ。」
「上司は部下にぴったりな目標を与え、逃げ場をなくし、どうやったらいいかを示していくのが仕事。」
「思う存分やれなどという言葉は、従来からそういう風土のある中で発せられなければ意味がない。上司は言葉を発する前にその下地である風土を整えなければならない。」
「組織のフラット化によって今の役職者は昔よりも仕事量が増えている。骨太で、誤解なく相手に伝わる方針と、それを受け取る人が自分の裁量の範囲で、指示をより詳細設計していく分業体制が必要になった。そのためには、部下が物怖じせず、ものが言える上司であることが必要。」
「合理的条件や外部誘因などでいくら生産活動をコントロールしようとしても、インフォーマルグループの作る空気には勝てない。インフォーマルグループを味方につけ、部下の本音を吸収し、こちらの指令の緩衝材になってもらうそういう配慮が必要。」

そして、「指示や判断の根源がコアコンピタンス」の章では、コアコンピタンスの5条件を提示しつつ、JINSの再生を例に挙げ、選択と集中ではコアコンピタンスの先細りを生むとしつつ、会社が永続的発展を続けるためにはコアコンピタンスが生かせる新たな領域を見つけるために多事業に分散投資をしていくことも重要と説く。

さらに、日本型経営の特徴として、ギリギリの線を与え続けることと、将来の見通しがクリアというモチベーションサイクルがそのままキャリアパスの下敷きとなって、日本企業の強みとなっていると分析している。

各章の最後にその理論を研究した人物とその内容が紹介されているのも学習の補助となる。

中間管理職だけではなく、組織論を学ぼうとする人たち全般にもお勧めしたい本である。

「ファルマゲドン」デイヴィッド・ヒーリー著 みすず書房2015/06/27 21:16

現代の製薬会社が、新薬を売り出すために不都合な臨床試験結果の隠蔽やデータの改ざん。さらには、新たな病気を作り出して、医薬品の販売増加のためにあらゆる手段を使って取り組んでいるかを暴き出した衝撃的な著作。
これは、アメリカの事例であるが、日本における現状も大差はないのではないかとも思ってしまう。

製薬企業の販売促進のために、いかに無駄な薬が開発され、投与されているかの事例がいくつも出てくる。
・まずは、著者の専門分野である精神科における抗うつ薬SSRIの処方の現状である。アメリカでは、治療投与の問題があり医師が妊娠中の女性にもSSRIを投与し、重大な先天性欠損症や流産の危険性を高めているという。
・もう一つ驚いたのは、喘息の診断に使用されるピークフローメーターの登場により、本来治療の必要のない人たちまで吸入薬を処方されているが、その薬はプラセボ投与群より死亡率が高いという事実。
・それから、血中コレステロール値が少しでも上昇しているとスタチン系薬剤を投与される現状。心血管系のリスクのない人がこの薬を使うとむしろ死亡率が増加するという。
・もう一つ、更年期の女性に対するホルモン補充療法。これは、乳がんを引き起こす可能性が指摘されたため一旦売上が減少したが、新たに骨粗しょう症に適応するという販促キャンペーンで売上を回復させたという。
・さらに、糖尿病の予防として血糖値が少しでも高いと血糖降下薬が処方されている現状。この血糖降下薬にも超過死亡率の問題があるという。

また、現代の統計的手法によるエビデンス全盛にも疑問を投げかける。
骨折とは全く関係のない場所にギブスをはめて比較しても有効な結果が出てしまうという極端な事例を示して、今の製薬企業が行っているのもこれと同じだとその問題点を指摘する。
また、SSRIなどの抗うつ薬が自殺を低減するエビデンスは全くない事実も示している。むしろ薬によっては、自殺を増やしてしまうとも指摘する。

こうした問題の背景には、すでに新薬の開発に限界が生じているため、製薬企業の性格が市場で販売する薬のマーケティングを行う企業に変わったことであるという。

現状の医薬品業界の極端な例えとして著者は、製薬業界とタバコ業界は同列と指摘し、
もし現在のブロックバスター薬が店頭で販売されるようになったら、製薬業界はタバコと同じくらいの宣伝を行い、同じくらいの害をもたらすことになる。とすれば、ブロックバスター薬にもタバコと同じ警告文を記載したほうがより安全なのではと皮肉を込めて指摘する。

今の製薬企業の実態が浮き彫りにされている注目すべき著作である。