「失われた国家の富」ガブリエル・ズックマン著 NTT出版2015/07/12 21:03

本書は、副題にある通り、タックスヘイブンの実態を詳細に分析したうえで、著者が練り上げた独自の対策を提示している。
ちなみに、著者の師はあのピケティであるという。
タックスヘイブンの定義は様々だが、本書によればなんとスイスが最大のタックスヘイブンとされ、香港、シンガポール、ルクセンブルク、バハマなどが新興勢力とされる。

そして、著者の試算によれば、驚くべきことにタックスヘイブンにある金融資産は、世界の金融資産のうち8%にも上るという。ピケティとともに計算した利回りによって計算されたタックスヘイブンによる所得税の脱税額は800億ユーロ(約11兆円)という膨大な額に上る。

後半では、これらタックスヘイブンに対して、独自の対策が提起される。 まずはタックスヘイブンの国に対して、失われた富に相当する制裁関税をかけることだという。これによりタックスヘイブン国の銀行の秘密業務の廃止へ向けた圧力をかける。
続いて、世界規模の金融資産台帳を作成する。
さらに、多国籍企業による移転価格操作に対しては、世界的規模での利益に課税する。

本書を通じてタックスヘイブンの実態がよくわかるとともに、その対策として国際的な協力と枠組みづくりが必要とされていることがよくわかる。 「21世紀の資本」と同様、本書が提示する課題と解決策が大きな議論を巻き起こすことを期待したい。

それにしても、本書を読むとなぜスイスがユーロに加盟しないのか、なぜスイスフランは通貨が高いのかの理由がよくわかる。
残念ながら、我々が抱いてきたイメージとはかけ離れた側面があるということも。

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