「税で日本はよみがえる」森信茂樹著 日本経済新聞社2015/07/11 21:35

現在の日本の税をめぐる課題を提示しながら、世界各国の税制も分析し、これからの税制のあり方を具体的に提示している本。
普段我々が接する機会の少ない世界の税制や社会保障を具体的に解説していることにより、日本の課題が明確に浮かび上がってくる。

まずは、各国の税制が参考になる。
オランダでは、ワークシェアリングが定着しワークライフバランスが確立しているが、そこに至る過程は税制と社会保障を一体的に設計してきたことである。すなわち、所得控除から税額控除に変更し課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げ、納税をしていない低所得者層には給付を与えて所得再分配機能を強化。また、所得税と社会保険料を一体化されている。社会保障と税制と雇用政策を一体として運営実行されている。
スウェーデンでは、高い国民負担率の下で所得再分配が行き届いている一方で企業は高い国際競争力を維持している。この背景には、資本所得と勤労所得を分離した二元的所得税の導入がある。

そして日本の税制への提言が示される。
法人税については、国際的に割高と呼ばれているが、EU諸国の統計データを見ると表面税率は下がっているのにかかわらず、法人税収の対GDP比は上昇していることを示し、背景には表面税率引き下げと同時に課税ベースの拡大が大きな要因としている。その上で、各種租税特別措置の抜本的な見直し、赤字法人課税の徹底、事業税の外形標準課税強化など課税ベースの拡大策が挙げられている。
一方、個人については、勤労税額控除(給付付き税額控除の一種)の導入を提言している。これを税制と社会保障制度の一体的改革として労働による稼得行為と直接リンクさせることにより、勤労インセンティブを高める政策は、モラルハザードを提言させる効果を持つものとして注目される。

さらに、少子化対策としての税制も紹介している。
OECD諸国の家族政策財政支出と合計特殊出生率との関連では、子育て支援などの財政支出額が多いほど出生率は高くなるというデータが示され、我が国のこの分野における予算の少なさが少子化につながっていることが実感できる。

続いて、格差問題への対応である。わが国の所得税のいびつな負担構造として、所得1億円までは負担割合は増加するが、1億円を超えると負担割合は減少していくという衝撃的なグラフが示される。これに対しては、課税ベースの拡大、資産への課税、相続税、そして二元的所得税などを提示している。

以上の議論を総括し、各国の税体系を国際比較し、わが国の租税負担率、社会保険料も含めた国民負担率のいずれも低く、歳出は比較的高いものとなっている。その結果当然ながらGDP比では、最悪の財政状況となっている。
ここで著者は、補正予算の問題、霞が関の予算至上主義を指摘し、予算がどう使われどのような効果をあげたのか事後評価をしっかり行うことを提言する。
そして、税制にあるバラマキの筆頭格は個人も含めた租税特別措置であるとして、所得控除から税額控除へという流れを再度提起する。

最後の著者の言葉が重い。
「希望の増税にしていく努力が必要だ。」
客観的な視点で日本の税制を見つめなおすことのできる好著である。

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