「世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠」ジョセフ・スティグリッツ著 徳間書店2015/08/02 20:45

いつも格差問題に深く切り込んでいるスティグリッツ教授の過去の雑誌記事をテーマごとにまとめた本。
このため、やや古い記事もあるが、その主張は一貫して色褪せてはいない。

特に、あのピケティの問題提起へのスティグリッツなりの解答が示されているのが興味深い。
すなわち、アメリカに巨大格差を引き起こしたのは、ピケティの言うような経済法則ではなく政治であるとする。北欧諸国では、一人当たりの所得の伸び率でアメリカと同等の実績を残しているが、高レベルの平等を実現していることを引き合いに出し、政治に介入することで格差をなくすことは可能であるとする。
「不平等を拡大させているのは、揺るぎない経済の法則ではなく、私たち自身が書いた法律なのだ。」

もう一つ注目される記事がある。
「日本を反面教師ではなく手本とすべし」という記事である。
すなわち、日本は20年もの間成長停滞に見舞われ、金融危機の対処に失敗したというのが通説であるが、実態は全く異なるというものである。
日本の労働人口は2001年から2010年にかけて5.5%縮小したことを考えると、労働者一人当たり実質経済成長率で見れば、アメリカやドイツ、イギリス、オーストラリアを上回っていたという。
また、人口に占める大卒者の割合は、世界第2位であり、世界金融危機の際も失業率は5.5%にとどまっている上、所得の平等性、平均余命、子供の教育と医療への投資などなど多くの指標でアメリカを上回っているとして、アメリカでも成長と平等を同時に向上させうるとし、日本に学べとする。

最終章でも、ピケティを引き合いに出し、「現在極限まで達している不平等は必然ではない。不平等は非情な経済法則の結果ではなく、政策の選択の結果であり、ひいては政治の結果である。」とし、アメリカの巨大格差を治癒し、繁栄が共有される状況を取り戻そうと主張する。

「不平等は必然ではない」と、改革によって格差は解消できると主張しているいうスティグリッツの議論は、ピケティへの答えであり、格差解消のための強い意志を感じる。

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