「AIは心を持てるのか」ジョージ・ザルカダキス著 日経BP社2015/10/31 21:42

本書は表題のとおり、AIについての歴史と未来について著者の考察を述べたものである。最近は、こういった類の本数多く出版されているが、それらの中で秀逸である。
本書を通読するだけで、言語学、論理学、数学、哲学、物理学、脳科学などかなりの領域についての著者の造詣の深さと、著者独特の考え方が示され、深く考えさせられる著作になっている。
まずは、言語を持った人類の始まりから考察し、「ストーリーテリングする脳」が、人間を特徴付けているとする。
AIを巡る議論には、そもそも心とは何かという哲学的な議論に行き着く。すなわち、人間の意識はソフトウェアと同様生物学的な身体から別個なものとしてしょうらいはダウンロードができるようになるとする唯物論と、もう一つは物質的な世界は幻想であり、心だけが真実であるとする観念論がある。その始まりは、プラトンのイデア論とアリストテレスの経験論である。現代の科学の進化は、いうまでもなくアリストテレスの考え方が基礎となっている。
そして、ブールの記号論理学である。これをフレーゲが拡張し、ヒルベルトがそこに潜む欠陥を提起し、ラッセルが床屋のパラドックスという問題を提示して、ゲーデルが不完全性定理を著した。これをさらに推し進めたのが、チューリングである。
以上の議論から推測されるのは、ペンローズの指摘の通り、アルゴリズムに還元できるコンピュータでは、AIは実現できないというものである。 しかし、物語はここで終わりではない。
一つは、人間の脳を真似た人工のニューラルネットワークであり、自己触媒反応であり、セル・オートマトンである。

著者の幾つかの言葉が印象的である。
「おそらく、心は身体から本当は分離していないのだ。」
「「動物の体は人間も含めて、自律的な部品から作られているわけではない。」
「人工知能は、他のものとは全く異なるテクノロジーである。それは、私たちの社会、経済、私たちが住むこの惑星を根本的に変えてしまう力が潜んでいるからというだけではない。
私たちは誰なのか、私たちはどのように考え、どのようにコミュニケートするのかなど、私たちそのものを問題にしているからだ。」

様々な考察を踏まえても、著者はこのテーマには答えを述べてはいない。
ただ、言えることは、AIを作り出すのは、今まで多くの先人が作り出して受け継がれてきた知識の成果であるということである。

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