「電気ショックの時代」エドワード・ショーター、デイヴィッド・ヒーリー著 みすず書房2018/05/05 05:42

★★★☆☆

本書は、精神疾患の治療法として1930年代に開発され、今でも有効な治療法として使用されている電気ショックについて、その歴史を辿ったものである。
その内容は、開発当初は治療効果が高いとされていたこの治療法が、時代を経るとともにその名称と見た目から、倫理的に問題があるとされ次第に廃れていき、最近になって再び注目されるようになるまでを描くものである。

1930年代、精神医学における治療法といえば鎮静剤しかなく事実上医学は何の救いもなかった。それは、てんかんと統合失調症を併発している患者が、てんかんの発症後明らかに統合失調症から回復していることの発見から始まる。当初、樟脳による治療が行われその後メトラゾールやインスリンによりショック療法が行われ治療効果が確かめられた。
これを応用し電気を使ったけいれん誘発として開発したのが、チェルレッティである。以後この手法が極めて有効な治療法であるという評価が確定し、世界に広まって行く。

ところが、その過程で、電気ショック(ECT)が精神病院において患者に規則を守らせいうことを聞かせるために懲罰的に用いられたり、精神分析学による治療や、新たな薬の発見などにより、次第に脇に追いやられて行く。特に大きな役割を果たしたのが、映画「カッコーの巣の上で」である。インフォームドコンセントの流れもあり、1970年代になるとアメリカではECTの使用が制限され、サンフランシスコでは完全に禁止されてしまう。
この結果、手続きのために治療が遅れ、複数の死者が発生したという。

ECTへの回帰は、薬物療法の治療不応性のある患者への有効性が再認識されてきたことをきっかけにしている。
現代では、電気を使った治療にも磁気刺激や埋込型治療など様々な改善がなされ、骨折などの副作用への対策も進んでいる。
しかし今なお1938年のチェルレッティの治療法の基本は変わらず今なお生き続けている。

著者が、心臓麻痺に有効な除細動器はまったくそのようなことはないのに、電気ショックだけは映画でも否定的に扱われる問題を指摘する。
そして、
「医学という領域は、不合理性から絶縁されてなどいないのである。」と結んでいる。

医療の世界においても、試行錯誤はあるが、その治療成績にもかかわらずここまでイメージを悪く描かれた治療法も珍しい。
特に映画やマスコミの影響の大きさを改めて感じる。
これは他の分野でもよく見られる現象かもしれない。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://takokakuta.asablo.jp/blog/2018/05/05/8844445/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。