「ダーウィンエコノミー」ロバート・H・フランク調 日本経済新聞出版社2018/06/15 07:53

個人の利益と集団の利益が相反する場合に、ダーウィンの理論を応用して独自の理論を展開している。
すなわち、自然選択の理論において、アメリカアカシカのツノを例に挙げ、個の利益が種の不利益となることがあり、個体レベルでの競争優位性は必ずしも種の生存にとって好ましいものではないという事実を応用し、背景を考慮しない旧来の経済理論を批判する。
これに加えて、行動経済学の理論やコースの理論を組み合わせて、本書はほぼ一貫として、アメリカにおける規制反対の立場をとるリバタリアンの主張への反論に彩られている。

例として、
・財政赤字により道路舗装をアスファルトから砂利道に格下げしているが、結果として自動車の損傷や死亡事故の発生により、むしろコストがかかっていることを指摘。
・政府が借金で支出を増やすと「消費者はそのツケは将来の税負担となると考え今消費しなくなる」という反対論に対し行動経済学の立場から批判を展開。
・軍拡競争を例に、互角の二国が際限ない軍拡に突き進んむ事例を挙げ、互角の軍拡競争が無駄であり多国間の軍縮協定が全員にとって利益になるとしている。
・高額所得者への減税の議論の中で、減税は雇用創出促進の効果があるとされたが、雇用の増加によって利潤が増加しない限り雇用は増やさないとする。
・さらに、気候変動とCO2課税、渋滞料金の徴収、タバコ税、酒税など間接的に害を及ぼす課税の効果を検証している。

また、著者独自の提案として、累進的消費税を取り上げていることは注目に値する。この税は、消費税の逆進性の問題を解決するとともに、他人を害する行動を控えさせることができるという。

ダーウィンの理論からの経済学への応用というと、環境に適応したものだけが生き残るという適者生存に目が行きがちであるが、本書のように個人と集団の利益が相反した時の解決策としての考え方もあるという議論に新鮮さを感じた。