「幸せになる資本主義」田端博邦著 朝日新聞出版2010/08/09 22:49

金融危機が発生した後の世界経済の現状を見つめ、この国で盛んに主張されていた「自己責任」とは何かを詳細に分析し、主にこの国の「教育」と「雇用」について、ヨーロッパ型の考え方との違いを浮き彫りにし、あの高度経済成長の末期にこの国の方向性がアメリカ型の新自由主義に方向転換してしまった経緯を解説している。

確かに、いい会社に入れるために熾烈な受験戦争があり、親は教育費に金をかけ、書店には「勝ち組」「資産運用」「資格」などの本があふれかえり、社会が市場化して利己心が強まってしまった。残念ながら、その「いい会社」に入っても、深夜に及ぶ過酷な労働条件が待っている。

本書の議論で重要なのは、社会は「人」で成り立っているという考え方である。そこからドイツのように大学も含めた教育は原則として無償であったり、家賃負担を軽減するための公費負担であったり、賃金はコストではないという考え方がでてくる。

以前読んだ書物のなかで、戦後の日本人の「幸福度」は、経済が成長しているのにもかかわらず、戦後間もない貧しい時期とほぼ一貫して変わっていないという。
 年金や医療、教育、介護など先行きの見えない不安の中で、この国では消費が低迷し、貯蓄残高だけが積み上がっている。
 ここで紹介されているジョン・ロックの言葉「政府は人々の利益を守り実現すること」や、アメリカ独立宣言「生命、自由、幸福の追求というすべての人の権利を確保することが政府の任務」に、原点があり、解決策が見えてきそうである。

日本は今だ成熟した民主主義にはなっていないという。すなわち、国は、お上であって我々が参加し作り上げた社会という認識が薄い。そこから、税金は出したくないという考えになり、これが「自己責任論」に結びついてしまう。
 一方、自分たちが作り上げた社会であるという認識に立ってみると、違った姿が見えてくる。

著者は、先行きの不安がなく、安心して暮らせる社会を構築することこそが、「幸せになる資本主義」と教えてくれる。

これからのこの国を考えていくのにあたって、とても重要な本になりそうな予感を感じさせる。

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