「タネが危ない」野口勲著 日本経済新聞2011/10/16 21:53

前半は少年時代に手塚治虫に夢中になり、虫プロの編集者になって火の鳥の編集者になった著者の経歴が記される。そして、虫プロが倒産してから家業の種屋を継ぐことになるが、その時手塚漫画からの教えが、固定種専門の種屋となって花開く。
そして、本書の主題である。

今、日本で売られている野菜のほとんどがF1という種苗会社でつくられた規格野菜をつくるのに好都合な種であり、同じものがつくることができない仕組みの種である。
このF1という種のつくり方も、はじめは自家受粉をしないよう「除雄」というおしべを除く方法、次いで自家不和合性という性質を逆手にとった方法、そして今多用されているのが「雄性不捻」という花粉をつくれなくなった突然変異種を使う方法である。
なお、この「雄性不捻」は、ミトコンドリアの異常によって引き起こされるという。
くわえて、実はこの受粉にはミツバチが大量に使用されているという。

著者は、そこからミツバチ大量失踪のなぞも、雄性不捻というミトコンドリア異常の植物の花粉を摂取し続けてきたミツバチにもミトコンドリア異常が起こっているのではないかとの仮設を立てている。

つまり、われわれが今普通に食べている野菜は、そのほとんどが雄性不捻というミトコンドリア異常の植物なのである。
もし、著者の仮説が正しいとすれば、我々人間にも危機が迫っているのかもしてないと思うと背筋が寒くなってくる。

そして、遺伝子組み換え作物の遺伝子組み換え技術も紹介し、その種子が発芽と同時に死んでしまうアポトーシスを組み込んだものまで登場している現実を示し、この花粉が広まればすべての植物が死滅してしまう可能性をも述べている。

改めて、前半で紹介されている「火の鳥」の最終章の言葉が重く響く。「でもこんどこそ…生命を正しく使ってくれるようになるだろう…」

著者のように、古来からの伝統である固定種の種を販売し続ける活動を支持したい。
そして、我々消費者も、野菜の形ばかり求めるのではなく、不ぞろいでも個性のある野菜たちを手に入れるようにしていきたい。

本書をきっかけに、固定種農業が普及することを願うばかりである。

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