「重力とは何か」大栗博司著 幻冬社書房2012/07/15 13:04

CERNのLHCでヒッグス粒子とみられるが発見されたというニュースの報道があった。理論上その存在が予言され、長年探し続けてきたものだけに事実とすれば感慨深い。

本書は、重力をテーマにアインシュタインの相対性理論からはじまり、量子力学、そして著者の専門とする超弦理論まで、最新の理論物理学の成果を盛り込みながらわれわれ素人にもわかりやすく解説してくれる入門書になっている。
もちろん、今回の大発見であるヒッグス粒子も出てくる。

最新の理論物理学の成果をわかりやすく解説し、難解な理論も具体的で手にとるように説明してくれる。
とはいえ、日常現象とはかけ離れた世界だけに、戸惑いを覚えるのも事実である。
なかでも、「重力のホログラフィー原理」は何とも不思議である。つまり三次元の空間で起きる重力現象はすべて二次元世界に投影された現象として理解できるというものである。
重力は幻想であり、私たちの存在しているこの空間そのものがある種の幻想と言えるというのである。

そして、この宇宙はわれわれ人間にとって都合のよいようにできていると考える「人間原理」への、マルチバースという回答である。

このような書物を読むといつも感じる。
この小さな地球上で、いまだに続く戦争や資源獲得競争、領土争いなど、ほんのちっぽけなものにすぎないと。

「世界を救う処方箋」ジェフリー・サックス著 早川書房2012/07/15 13:12

世界の貧困問題の解決のために強いメッセージを発しているジェフリー・サックスの最新作。
今回は、アメリカの危機の分析とこれからの処方箋を記している。

本書はアメリカについて書かれたものであるが、そのほとんどは日本にも当てはまる。
たとえば、テレビの視聴は社会的健康に悪い。国民がより長時間テレビをみる国では社会に対する信頼度が低レベルにあるとし、アメリカが際立ってテレビの視聴時間が長いことを取り上げている。
また、コマーシャリゼーションと国内貧困率の関係では、商業志向が高い国は貧困層を置き去りにしていることが明確になっている。ここでは日本はアメリカに次いで第二位で貧困率が高い。
さらに、財政赤字のGDP比の高い国は、高度な教育、託児所、無償の医療、幼い子供のいる過程への交付金など北欧諸国にみられるようにより多くの公共財が供給されているという事実である。

日本でもしばしば聞かれる政府の「無駄遣いをなくす」という声に対しては、そもそもそれほど大きなものではないとする。

そこで著者が述べる処方箋は、困っている人を助け、社会全体を幸福にするために税金を払うこと、これが「共感の経済学」である。
また、印象的なのは、「ハイパーコマーシャリズムと手を切り、騒々しいメディアから距離をおき、今の経済状況についてもっと学ぶこと」と述べていることである。

物の豊かさと幸福度は比例しない。
新たな価値観がここにある。