「鉄道復権」宇都宮浄人著 新潮選書2012/07/16 11:14

本書は、ここ最近、都市再生、環境問題などをキーワードに急速に進む欧州の鉄道の現状を紹介しながら、日本の鉄道の課題を探った意欲作である。

欧州統合をきっかけに、欧州各地をネットワーク化した高速鉄道を紹介し、ベルリンやウィーンなど大都市でも進む結節点としての役割を持つ中央駅の建設、鉄道網を補完するLRTなど鉄道が復権しつつある欧州の鉄道を多角的に紹介している。
なかでも特に注目されるのが、LRTである。自家用車から公共交通へのシフトを見事に果たしたフライブルク。同様に自動車に対して厳しい規制をしつつ積極的にLRTの整備を進めて世界一の生活水準として知られるチューリヒ。これ以外にも、現在多くの欧州の地方都市で整備が進められていることを紹介している。

一方で、世界一とも呼ばれる日本の鉄道であるが、こと地方都市における現状となると寂しい限りである。
本書で紹介されるのは、LRT計画を立てながら政争の具とされて頓挫した宇都宮市と富山ライトレールとして知られる富山市の挑戦である。

本書が問題提起しているのは、自動車中心社会となりつつある日本で、地方都市の公共交通が衰退し、結果として高齢者やティーンエイジャーの移動の自由を奪うことになっている現状である。
ここで著者が言うのは黒字化という課題を鉄道に与えてしまっていることが背景にあるとする。
そもそも公共交通に採算を求めるのは日本くらいであるとも。

鉄道が日本の地方再生のきっかけづくりになる可能性を感じた。

「ロスト近代」橋下努著 弘文堂2012/07/16 12:09

失われた20年とも呼ばれる1990年台以降の日本を「ロスト近代」と定義し、果てしない欲望の増幅が経済成長の源泉とされていた消費社会とは明確に区分しようとする試みである。
独自の視点から、世界の潮流を捉えていて興味深い本である。

 我々は未だに「成長」を信じ続けているが、もはや時代そのものが変化してしまっている。
宣伝に踊らされ、欲望を掻き立てられ、欲しいと思ったブランド商品を買っても飽きたらない時代。そんな時代が終わりを告げている。デパートの売上減少傾向に歯止めがかからずバブル期の半分程度まで落ち込んでいることがその象徴である。
 インターネットやスマートホンなど基本料金さえ払ってしまえば、無料の情報が入ってくる。ネットを通じた自己愛消費によって、人生を楽しむことができる時代になった。
そして、東日本大震災を経た今、われわれの思考習慣は決定的に変化したとする。

最近よく言われる、「北欧型社会」モデルの分析も興味深い。そもそも北欧諸国は、アメリカ型の市場原理主義国家と対比をなす福祉国家ではないという。北欧諸国は、90年台以降大胆な新自由主義か路線を推し進め、日本よりも自由化している面がたくさんあるというのである。そこで、著者は新自由主義の定義を改めて明確化している。

また、「ロスト近代」の立場からの2008年経済危機も独自の視点から分析している。
サブプライムローン問題がなくても、金融危機は起きたとし、そもそも1980年代後半から危機は繰り返し起きているとする。経済危機は、好況と不況が循環する経済システムの中で、不況が一気に訪れることであり、バブルを処理するためには、できるだけ瞬時のパニック調整が望ましいとする。

本書は、消費社会の終焉と新たな時代の胎動を見事に描き出している。
時代そのものを捉え直して、新たな社会の構築をするときに来ていることを改めて痛感する。