「ファーマゲドン」フィリップ・リンベリー、イザベル・オークショット著 日経BP社2015/04/12 12:00

現代における世界で一般的に行われている工場式農場の問題点を、世界中を取材しながら浮き彫りにしていく衝撃的な著作である。
 効率化を追求した大規模な肉の生産システムが、世界のいたるところで大きなひずみが生じていることがよくわかる。

まずは、米国式大規模酪農場の舞台カリフォルニアの住民の喘息。
台湾やアルゼンチンの過密なケージ飼いの養鶏場における悲惨な鶏たちの姿。
米国の養鶏の中心地ブロイラーベルトによるチェサピーク湾の深刻な汚染。
フランス最大の豚肉生産地であるブルターニュの北岸の緑の藻に汚染されたサンモーリスビーチでの、藻から発生する有毒ガスによる馬や犬の中毒死事故。
アメリカのノースカロライナ州の川では、工場式養豚の糞尿による汚染で多くの魚が死に、貯水池では有毒ガスが発生し作業員などの死亡事故も発生している。
などなど、世界中の大規模畜産による深刻な実態を取材している。

そして、動物用飼料の原料カタクチイワシを魚粉にする工場から出る大量の廃棄物により漁業もできなくなり子供の4分の1が栄養失調となっているぺルーの漁村。
アルゼンチンでは大豆産業が支配し、加工工場では虫がつかないよう大量の化学薬品が使用され、工場のある町ではがんの発生率が全国の3倍にもなっている。
などまた、飼料生産のための漁村の荒廃や農地の拡大による環境汚染も深刻である。

さらに、
家畜の病気を予防したり治療するために大量に使用される抗生物質とそれによってもたらされる耐性菌の出現や、大量の家禽を狭い折に押し込めて飼ってきたことによってもたらされつつある新型インフルエンザの出現。 
さらには、遺伝子組み換え技術やクローン技術によるさまざまな懸念。

圧巻は、本書に掲載されている工業的飼育のために必要とされる広大な農地の図表である。
工業的に育てられる家畜に食べさせるのではなく、人間が直接食べれば30億人を養うことができるとする。

  これら、多くの取材を経たうえで、著者が提案する解決策は説得力がある。
それは、「反芻動物は小屋ではなく牧草地で育てよう。」「魚は家畜にではなく人間に食べさせよう」、「豚と家禽に残飯を与え、餌をあさらせる。」、「ごみの減量に投資する。」、「肉の食べ過ぎをやめる。」、そして、「土壌の持続可能性を高めるため、作物と家畜を一緒に育てる混合農業に戻ろう。」

  われわれは、あまりにも不自然な形で畜産を変えてしまったようだ。
そこから受ける代償は、あまりにも大きい。

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