「神経免疫学革命」ミハル・シュワルツ、アナット・ロンドン著 早川書房2018/05/19 09:16

★★★☆☆

本書は表題のとおり、うつ病、脊髄損傷、緑内障、アルツハイマー病、ALSなど脳や神経系の病氣や怪我が免疫系を高める方法によって治療できる可能性があるという驚きの研究成果がいくつも出て来る衝撃的な本である。

著者は、まず免疫系を外部から侵入して脅威となった病原体から体を守るための仕組みだけではなく、体のメンテナンスと防御における役割に注目し、脳や神経系も例外ではないとする。

まずは老化。著者はマウスを使った実験で老化による認知機能を骨髄移植により高めることに成功している。認知機能を保つ上で、免疫系が重要であるとし、瞑想、運動、社会との結びつきの維持、学び、脳を鍛えることを推奨している。

続いてうつ。持続的なストレスが免疫機能を低下させているとし、生まれ持った免疫系の力を高めるのに、免疫力を高める食べ物(魚介類、植物性油、緑黄色野菜、ナッツ類など)や運動を推奨している。

そして驚きは脊髄損傷の治療である。脊髄損傷の患者に傷の治癒に関わる免疫細胞であるマクロファージを注入したところ、臨床的に有意とされる運動感覚機能が回復したという。

さらに緑内障。これは、眼の神経細胞が徐々に死んでいき失明に至る病気だが、眼圧だけではなく眼の中のグルタミン酸濃度が高まり眼の神経にダメージを与えており、神経保護物質が緑内障の治療に重要な方向性の一つとなっているとする。そして、具体的にt細胞に基づくワクチンを接種してニューロンの死を減らす方法を提案している。

アルツハイマーやALSも免疫系の力を高めることにより改善の可能性を述べている。

まだ研究段階の治療方法が多いものの、既存の常識を覆す免疫系という新たな視点からの画期的な治療方法を数多く提示している本書は、多くの患者にとっても希望の光となる。今後のこの分野の研究の進展に期待したい。

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