フレンチ・パラドックス 榊原英輔著 文藝春秋者 ― 2010/08/29 15:50
前半は、デフレにあえぐ日本経済の現状を、新興国の安い労賃を背景とした工業製品の流入によるものとし、この価格差が収斂していかなければ、デフレの終息はないと分析している。
こういう状況に対し、先例としてEU発足時のドイツやフランスをあげ、特に経済危機後も好パフォーマンスを示しているフランスの取り組みを紹介している。
新自由主義を標榜する英米や日本とは全く異なる政府による手厚い福祉制度があり、国民が安心して暮らしていける社会がここにある。ただし、その背景には、国民が国を信頼しているからこその高負担がある。
とはいえ、法人税は日本よりも安く、競争力の維持という視点はしっかり持っていることも忘れてはならない。
そこで、日本が参考にすべきは、人口規模の小さい北欧諸国ではなく、一定の規模を持つフランスであるとしている。
以上の議論までは、著者の主張に全面的に同意する。
だがここから先の章になると、怪しくなってくる。
著者は、国民貯蓄があるのだから、大規模な国債発行にて賄うことを主張する。
大きな政府を志向するからには、それに耐えうるしっかりとした財源を確保しなければ、国民も安心できない。
もちろん、すでにわが国に観察されているリカードの等価命題や過去のデンマークやアイルランドでみられた非ケインズ効果をあげているのだが、今はそういう時期ではないとするがどうか。
いずれにせよ、そろそろ「無駄を削減」という議論は、終わりにしたい。
「行動経済学入門」 真壁昭夫著 ダイヤモンド社 ― 2010/08/29 15:59
JMMでの常連の解説者である真壁氏の最新の経済理論の紹介書。
リーマンショックやドバイショック、そしてギリシャ危機に至るまでここ最近の金融危機など、伝統的な経済学(金融工学も含む)が読み解くことのできない、人間の不合理な行動を説き明かす手段として行動経済学が注目されている。
本書では、これら行動経済学の中心理論である神経経済学から、プロスペクト理論、認知的不協和、心理感情、フレーミング効果と心理感情、ヒューリスティック、初頭効果と代表性バイアス、ギャンブラーの誤謬などわかりやすく解説したうえで、現実に起こっている経済現象への応用と政策提言までも行っている。
行動経済学的に見ると、日本の経済政策はいかにもネガティブであり、これがさらに経済を冷え込ませるという悪循環にあることがよくわかる。 「景気は気から」とはよく言ったものである。
最近のコメント