「今この世界を生きているあなたのためのサイエンスⅡ」リチャード・ムラー著 楽工社2011/06/05 06:09

Ⅰに続いてⅡもおもしろい。
我々が普段常識と考えていることが見事に覆されていく。

本書の主題は、最終章の「地球温暖化」である。
ここでも、著者の通説への反論が興味深い。 すなわち 南極の氷の融解は温暖化の証拠ではない。むしろ、温暖化が進むと南極の氷が増大すると考えられてきた。
温暖化でハリケーンの被害額が増大しているというのも事実ではない。物価上昇を考慮すれば、その被害額は一定に近い。
ハリケーンの増加を温暖化の証拠とする主張も科学的ではない。観測精度が向上した結果に過ぎない。 などなど

興味深いのは、自動車に関する指摘で、
水素自動車は体積比のエネルギーで、ガソリンに比べて3分の1しかないため航続距離も短く実用性は困難とし、
電気自動車もエネルギー貯蔵率がガソリンの30分の1のため、重量が相当重いものとなる上、700回充電するごとに交換が必要になるという。
現実的な解決策は、回生ブレーキを活用したハイブリッドと軽量化である。

ここまで読むと、著者が環境破壊へ消極的な人物のようにも思えてくるが、決してそうではない。
明らかに、二酸化炭素排出は人間の経済活動によるものであるし、地球温暖化の作用もあると論じている。

そこで、誰にでも実行可能な地球温暖化対策として、省エネと新テクノロジーを挙げている。
電化製品を省エネ型のものにすること。
持続可能な再生可能エネルギーを活用すること。
二酸化炭素回収貯留技術を活用すること。
など、ひとつひとつ地道に技術を積み重ねていくことが大切としている。

著者は最後にこう言っている。
「最大の敵は悲観的になりすぎること。」
震災と原発に揺れる日本へ向けられた言葉のように響いた。

「なぜ経済予測は間違えるのか?」デイヴィッド・オレル著 河出書房新社2011/06/05 06:50

科学者の立場からみた科学としての経済学への疑問を、経済学の源流から新古典派や金融工学に至るまで、きちんと章建てして、ひとつひとつ反論を試みつつ、新たな考え方を提示している。
世界金融危機後ここ最近出版された多くの本の中でも特におすすめの本の一つである。

科学者らしく、紹介している経済学者の理論を丁寧に解説している。
・経済学の起源は、ニュートン力学をきっかけに、経済法則を理論で説明しようと試みたものである。最も有名なのが需要供給曲線であるが、住宅価格や原油価格のようにまったく説明できないものが現にある。
・原子の動きを説明したブラウン運動を経済に応用した合理的市場仮説を使っても、現実のGDP予測は当たったためしがない。
・パスカルの三角形が基礎となった正規分布では、株価の変動率は説明できない。むしろ、地震の揺れと同じくべき乗則の分布に従う。
・同じく、年収別にも地域的にも富の分布もべき乗則に従い、世界経済はきわめて非対称的になっている。
・そして、経済学の最大の問題点は、その因子の中に地球資源を入れていないことにある。
・加えて、豊かさの指標とも言われるGDPだけでは、成長の負の側面~格差の広がりや環境破壊などは見えてこない。すなわち、どんなに物質的に豊かな国々でも幸福を表す指標は1960年代以降上がるどころかわずかながら下がっている。
・著者は、アメリカ史上最大の詐欺事件を例に世界経済もネズミ講と同じようなものだと断じている。生産と消費のみの経済成長は必ず壁にぶち当たる。

世界的に積み上がる負債と進む環境破壊。
これが、150年間続いた経済学の結論かもしれない。
著者が最終章でいくつか紹介している、経済を一つの生命体としてとらえるような新たな考え方に期待したい。
持続可能な社会のために。