「最強国の条件」エイミー・チュア著 講談社2011/08/20 18:50

世界の歴史をさかのぼり、古今東西に登場した国々を分析し、最強国の定義付けをして、現代における最強国すなわちアメリカへの提言をしている。

興味深いことに、中世から近現代にかけて主要な役割を示しているのは、ユダヤ人である。すなわち、一時は寛容さをベースに大国となったスペインは、ユダヤ商人の果たす役割も大きかったが、イザベラ女王の時代に、異教徒として国外追放令を発する。これをきっかけとして、没落が始まる。
次に覇権が移ったのが当時スペイン領であったオランダである。というのも、スペインから逃れてきたユダヤ人が多く住んで、経済の中心地として勃興した。
その後、オランダがイギリスを実質的に統治し、オランダの寛容政策を移植するとともに、多くのユダヤ人が移り覇権もイギリスに移ることになる。
そして、宗教的寛容さを作り上げたアメリカである。ナチスドイツの迫害もあって、ヨーロッパから主要な頭脳が大量にアメリカに移り、最強国の基礎を作り上げていく。

もう一つ注目したいのが、モンゴルである。
モンゴル帝国はジンギスカンの時代に作られ、フビライになって最大の勢力を獲得するに至る。
意外なことに、ムガール帝国の祖は、ジンギスカンの子孫によって建国され、ムガールとはペルシャ語でモンゴルのことであるという。
このムガールもアクバル帝による寛容政策で頂点に達したもののやがて、不寛容政策に舵を切るとともに弱体化し、イギリスの征服を許してしまうことになる。

著者の分析で一貫しているのは最強国とは、統治した国々の文化や宗教への寛容性である。この寛容性が失われると、いずれも最強国から簡単に転落していく。
長い世界の歴史の中では、アメリカが今の地位を築き上げたのはわずかな期間でしかない。
アフガニスタンやイラクへの介入、2008年金融危機、そして債務問題に揺れるアメリカを見ていると、寛容性は弱まり、内向き志向を一段と強めつつあるように見える。
本書はそういうアメリカに向けられたメッセージである。

本書は新たな世界観を見せてくれる。

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