「水が世界を支配する」スティーブン・ソロモン著 集英社 ― 2011/08/22 18:58
水をめぐる壮大な世界の歴史を描き、水危機に揺れる世界のこれからを展望する。
水を切り口として、世界史を見つめる試みはユニークである。すなわち、耕作の開始、鉄の製造、人工運河、大航海時代、蒸気機関、巨大ダム、緑の革命、帯水層の活用など水のイノベーションが世界史のターニングポイントとなっているという視点である。
その中でも本書の主題は、やはり第4部「水不足の時代」である。
ダムや灌漑技術を駆使して、自然を克服してきた人類が大きな岐路に立たされている姿が描かれている。
第3部「豊かな水を享受する消費社会の誕生」で豊富な水とエネルギーを獲得した象徴としてのフーバーダムが、ここでは州をまたがる水利権の争いに姿を変えている。
このほか
ナイルをめぐるエジプトとエチオピアのあつれき。
イスラエルとアラブの水戦争。
ユーフラテス川の水源トルコと中東諸国の争い。
帯水層を利用するサウジアラビアとリビアと周辺国。
などなど多くの水をめぐる懸念が示される。
中でも最も懸念されるのは、中国である。
すでに黄河流域は砂漠化し、揚子江に造られた三峡ダムの環境への影響。
そして、揚子江の水を北部に送る南水北調プロジェクトには著者はちょうどソ連のアラル海を挙げ、持続可能性から大きな疑問を示している。
ここでヒントとなるのが、先進国での水の生産性の高さである。すなわち、一人あたりの取水量と経済成長及び人口増加との関連である。日本では、1965年から1989年に1立方メートル当たりの水の生産性が4倍になったという。
また、オーストラリアでの水取引所を活用した水政策の転換の成功例も紹介している。
ここでも、資源問題や地球温暖化問題と同様、水資源を持つ国と持たない国、先進国と最貧国など多くの対立構造が描かれ、人類が解決すべき大きなテーマであると感じる。
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