「日本の医療」島崎謙治著 東京大学出版会2011/10/09 11:31

本書は、日本の医療制度の成り立ちから、戦後を経ていくつもの改革の歴史と現状の課題、そして今後の展望までも見通した大作である。
諸外国の制度も比較検討し、日本の医療制度の特徴を浮き彫りにしている。

日本の医療は国際的に見れば、低コストで質の高い医療を提供している。とはいえ、人口構造の変化や経済成長率の低下といった問題が様々な問題を提起しつつある。

そこで著者は、日本の歴史から、戦後の国民皆保険達成と高度成長を背景とした老人医療費無料化が今の日本の医療制度を形づくり、これをベースに数度の大きな医療改革を経て今に至る歴史を紐解きつつ、問題の所在を浮き彫りにする。

そのうえで、もともと日本がモデルとしたドイツ、国民皆保険への道のりがみえないアメリカ、そして主たる財源を税に求めているスウェーデンの3カ国をとりあげ、日本への政策的示唆を述べている。

そして、保険の財源として社会保険料と税の問題や、強制加入の法的根拠、国保の問題、高齢者医療制度と被用者保険のかかわりなど一つ一つ丁寧に解説している。

問題の所在が複雑かつ多岐にわたるため、今後の展望についても一筋縄では行かない。
日本の医療の特徴は、国民皆保険、フリーアクセス、民中心の供給、現物給付であるとし、今までの医療改革は、診療報酬のみの政策誘導であったが、医療供給面から診療報酬以外の改革手法を訴える。そして、高齢化の進展から長期的な視野で改革に取り組むべきとしている。

本書では、日本の医療制度をめぐる課題を論点を整理して提示し、その改革の方向性については読者に委ねている。
深く考えさせられる書物に仕上がっている。

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